中国の首都、北京に位置する頤和園(いわえん、Yiheyuan)は、広大な敷地と美しい景観、そして中国の歴史を彩る物語に満ちた、まさに「庭園の傑作」です。1998年にユネスコの世界文化遺産に登録され、その顕著な普遍的価値が国際的に認められました。清朝の歴代皇帝が夏の離宮として利用し、特に西太后が愛した場所として知られています。
本ガイドでは、頤和園の歴史(上の地図⑳)、主要な見どころ、おすすめの観光ルート、そして訪問に役立つ実用的な情報までを網羅し、その魅力を余すところなくお伝えします。
頤和園の歴史と世界遺産としての価値
世界遺産としての基本情報
名称 | 頤和園 |
---|---|
登録年 | 1998年 |
登録基準 | (1):人類の創造的才能を表現する傑作である。 (2):ある期間またはある文化圏において、建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観設計の発展に大きな影響を与えた、価値ある人間の交流を示している。 (3):現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠。 |
頤和園の歴史:栄光と苦難の軌跡
頤和園の歴史は、その美しさだけでなく、中国近代史における苦難の時期とも深く結びついています。
- 前身:清漪園(せいいえん)の時代(18世紀半ば): 清の乾隆帝(けんりゅうてい、在位1735-1796年)が、母の孝聖憲皇后の還暦を祝うために、1750年から1764年にかけて造営を開始しました。この時、昆明湖の拡張や万寿山の整備が行われ、「清漪園」と名付けられました。江南の有名な庭園を模範とし、壮麗な建造物と広大な湖が特徴の美しい皇室庭園として完成しました。
- アロー戦争による破壊(1860年): 1860年、第二次アヘン戦争(アロー戦争)において、英仏連合軍によって清漪園は破壊され、多くの建物が焼失しました。これは、当時の中国が直面した厳しい国際情勢を象徴する出来事でした。
- 頤和園としての再建と西太后(19世紀末): 破壊された清漪園は、光緒帝(こうしょてい、在位1875-1908年)の時代、1888年に再建が開始されました。この再建を主導したのは、清朝末期の権力者であった西太后(せいたいごう)でした。彼女は海軍の予算を流用してまで庭園の再建に力を入れ、その際に現在の「頤和園」と改称されました。「頤和」とは「平和を養う」という意味があります。 頤和園は、西太后が晩年を過ごした場所として特に有名です。彼女はここで政務を行い、賓客を迎え、華やかな生活を送りました。戊戌の変法(ぼじゅのへんぽう)など、清朝末期の重要な政治的舞台ともなりました。
- 義和団の乱と再度の被害(1900年): 1900年、義和団の乱の際に、八カ国連合軍によって再び一部が破壊されましたが、再建された後、現在は一般に公開され、世界中の人々がその美しさを享受しています。
頤和園の歴史は、清朝の盛衰、そして中国が近代国家へと変貌していく過程を凝縮した物語であり、訪れる者に深い感慨を与えます。
頤和園の見どころ:庭園芸術の粋と歴史の舞台

頤和園は広大なため、主要な見どころを事前に把握しておくことが重要です。大きく分けて、万寿山地区、昆明湖地区、殿堂区の3つのエリアに分類できます。
殿堂区(主要入口・東宮門周辺)
頤和園の主要な入り口である東宮門(Donggongmen)を入ると、まずこの殿堂区に到着します。
- 仁寿殿(Ren Shou Dian): 皇帝が政務を行った場所です。乾隆帝の時代は勤政殿と呼ばれていましたが、再建時に仁寿殿と改称されました。玉座が置かれ、威厳ある雰囲気が漂います。殿の前には龍の頭を持つ亀(贔屓、ひいき)や鳳凰の彫刻が置かれ、皇室の権力を象徴しています。
- 徳和園(De He Yuan): 清朝最大の演劇舞台がある場所です。西太后が京劇などの観劇を愛したため、ここに高さ21mにも及ぶ三層の巨大な舞台「大戯楼(Daxi Lou)」が建てられました。当時の豪華絢爛な宮廷生活を垣間見ることができます。
万寿山地区(長廊沿いと山腹)
万寿山は頤和園の北側に位置し、仏教寺院や宮殿が階段状に配置されています。
- 長廊(Chang Lang): 世界最長の画廊としてギネス世界記録にも認定されている全長728メートルの回廊です。万寿山の麓に沿って昆明湖畔まで伸びています。梁や柱には中国の歴史物語、神話、風景など1万4千枚もの精巧な絵画が描かれており、雨の日でも快適に散策できます。絵画を鑑賞しながら歩くのは至福の時間です。
- 排雲殿(Pai Yun Dian)と仏香閣(Fo Xiang Ge): 長廊を抜けて万寿山の斜面を登ると、まず排雲殿に到達します。ここは西太后の誕生日を祝う儀式などが行われた場所です。さらに階段を登り続けると、頤和園のシンボルである仏香閣が姿を現します。高さ41メートルの八角形三層の楼閣で、頤和園全体を見下ろすことができる最高の展望スポットです。内部には千手観音像が安置されています。
- 智慧海(Zhi Hui Hai): 仏香閣の裏手、万寿山の頂上に位置する仏教寺院です。瑠璃瓦で装飾された壁面が特徴で、内部には仏像が安置されています。
- 蘇州街(Suzhou Jie): 万寿山の北側に位置する、江南地方の商業街を再現したエリアです。乾隆帝が南巡(南方への旅行)の際に、庶民の生活を体験するために造らせたと言われています。清朝時代には宦官が商人となり、皇帝や皇室の人々が買い物をする真似をしたそうです。現在はお土産物店や飲食店が並び、当時の雰囲気を楽しめます。
昆明湖地区(湖畔と湖上の島々)
頤和園の約4分の3を占める昆明湖は、その広大さと、湖上に浮かぶ島々が織りなす景観が魅力です。
- 十七孔橋(Shi Qi Kong Qiao): 昆明湖の東堤と南湖島を結ぶ、全長150メートルの橋です。17のアーチがあり、橋の欄干には540頭の石獅子(石のライオン)が彫られています。その壮麗さは頤和園の代表的な景観の一つです。夕暮れ時には美しいシルエットを見せます。
- 南湖島(Nan Hu Dao): 十七孔橋で渡ることができる昆明湖上の島です。島には龍王廟(Long Wang Miao)などの建物があり、静かな雰囲気の中で湖の景色を堪能できます。
- 石舫(Shi Fang): 昆明湖の北西岸に浮かぶ、大理石でできた船の形をした建築物です。全長36メートルで、その名の通り「石の船」を意味します。乾隆帝の時代に建造され、西太后が修復した際には西洋風のステンドグラスが加えられました。船の形をしていますが、もちろん動くことはありません。
- 西堤(Xi Di): 昆明湖の西側に伸びる堤で、杭州の西湖を模して造られました。柳の木が植えられ、湖上の橋が点在する風光明媚な散歩道です。特に春には新緑が美しく、写真撮影にも最適です。
頤和園のおすすめ観光ルートと所要時間

頤和園は非常に広大であるため、訪問時間は半日から終日を要します。効率よく見どころを回るためのモデルルートをいくつかご紹介します。
短時間(2~3時間)で主要な見どころを巡るルート
- 入口: 東宮門(最も一般的な入口)
- ルート:
- 仁寿殿で皇帝の執務空間を見学。
- 徳和園の大戯楼で宮廷文化に触れる。
- 長廊を散策し、美しい絵画を鑑賞しながら昆明湖方面へ。
- 仏香閣へ登り、頤和園全体と昆明湖のパノラマビューを楽しむ(時間があれば)。
- 昆明湖畔に出て、十七孔橋を遠景で眺める。
- 出口: 東宮門または北宮門(万寿山の裏手)
半日(3~4時間)でじっくり主要見どころを巡るルート
- 入口: 東宮門
- ルート:
- 仁寿殿、徳和園を見学。
- 長廊を歩き、排雲殿を経て仏香閣へ。頂上からの絶景を満喫。
- 仏香閣から下りて、そのまま昆明湖畔へ。
- 十七孔橋を渡り、南湖島を散策。
- 湖畔を散策し、石舫まで足を延ばす。
- 時間があれば、蘇州街(万寿山裏手)も訪れる。
- 出口: 東宮門、新宮門、または北宮門
終日(5時間以上)かけて隅々まで楽しむルート
- 入口: 東宮門
- ルート: 上記Bルートに加えて、さらに時間をかけて以下の場所を訪れます。
- 西堤の散策と、その上にある小さな橋や景色を楽しむ。
- 諧趣園(Xie Qu Yuan):長廊の東端にある、江南風の美しい池と回廊のある庭園。
- 昆明湖で遊覧船に乗る(別料金)。湖上から頤和園全体の景観を異なる視点から楽しめます。
- 万寿山の裏手の蘇州街で食事やお土産探しを楽しむ。
- 園内の他の小道や趣のある建物、庭園を自由に散策し、自分だけのお気に入りスポットを見つける。
- 出口: 自由に選べます。
所要時間に関するアドバイス
- 広大なため、全てを徒歩で回るのはかなりの体力が必要です。
- 園内には電動カート(遊覧車)も運行しており、疲れた際に利用すると便利です(有料)。
- 天候によっては、景観が大きく変わります。晴れた日や朝霧の立つ早朝も美しいですが、特に夕暮れ時は感動的な景色を楽しめます。
頤和園訪問のための実用情報

開園時間
- ピークシーズン(4月1日~10月31日):
- 門:6:30~18:00
- 園内施設:8:30~17:00
- オフピークシーズン(11月1日~3月31日):
- 門:7:00~17:00
- 園内施設:9:00~16:00 ※最終入場時間は閉園の1時間前など、時期によって異なる場合がありますので、事前に公式情報を確認してください。
入場料
- 基本入場券(通票):60元(ピークシーズン)、50元(オフピークシーズン)
- 主要な建物(仁寿殿、徳和園、仏香閣など)に入るには、別途入場券(聯票、共通券)が必要な場合があります。通票でこれらも含まれているか確認することをおすすめします。
- 学生や高齢者には割引が適用される場合があります。
アクセス: 北京市中心部からのアクセスは非常に便利です。
- 地下鉄:
- 地下鉄4号線「北宮門駅」で下車。頤和園の北宮門に最も近い入口です。
- 地下鉄4号線「西苑駅」で下車。東宮門方面へのアクセスが便利です。
- 地下鉄10号線「巴溝駅」から西郊線に乗り換え、「頤和園西門駅」で下車。
- バス: 多くの路線バスが頤和園周辺に停車します。
- 東宮門:331、332、346、394、718などのバスで「頤和園東門」下車。
- 北宮門:303、346、394、398、601などのバスで「頤和園北宮門」下車。
園内の設備
- トイレ: 各所に設置されています。
- 飲食: 園内にはいくつかの売店やレストランがあり、軽食や飲み物、簡単な食事をとることができます。
- 案内: 園内地図は入場口で入手できます。主要な場所には中国語と英語の案内板があります。
- レンタル: 車椅子やベビーカーのレンタルが可能な場所もあります。
訪問時の注意点
- 混雑: 特に週末や祝日は非常に混雑します。早朝訪問がおすすめです。
- 歩行: 広大な敷地を歩くため、歩きやすい靴を履いていくことを強くお勧めします。
- 日差し: 夏場は日差しが強いので、帽子、サングラス、日焼け止めなどの日よけ対策を忘れずに。
- 水分補給: 特に暑い時期はこまめな水分補給を心がけましょう。
- セキュリティーチェック: 入場時に手荷物検査がある場合があります。
- ガイド: 頤和園の歴史や文化をより深く理解するためには、ガイドツアーに参加するか、オーディオガイドを借りることを検討すると良いでしょう。
頤和園と周辺の観光スポット
頤和園の周辺には、他にも見どころがたくさんあります。
- 北京大学・清華大学: 頤和園の南東には、中国を代表するトップ大学である北京大学と清華大学があります。美しいキャンパスを散策するのもおすすめです。
- 円明園(えんめいえん): 頤和園のすぐ東隣に位置する、かつての壮麗な離宮。アロー戦争で徹底的に破壊され、現在は廃墟となっていますが、その残された遺跡は、清朝の栄華と近代の苦難を物語っています。歴史に関心がある方には必見の場所です。
北京頤和園 + 旧頤和園 + 天壇日帰りツアー(アトラクションチケットと専門ガイド付き)
まとめ:絵画のような美しさと歴史の重みが融合した庭園
中国の世界遺産「頤和園」は、その息をのむような美しい景観、そして清朝の興隆から衰退、そして再建に至るまでの波乱に満ちた歴史が凝縮された場所です。江南地方の庭園様式を取り入れつつ、広大なスケールで表現されたこの皇室庭園は、中国の伝統的な造園芸術の最高峰を示すものとして、まさに「傑作」と呼ぶにふさわしい存在です。
昆明湖に映る万寿山の姿、長廊の鮮やかな絵画、仏香閣から見下ろすパノラマ、そして西太后が過ごした豪華な宮殿群。それぞれの場所が、かつての皇帝や皇室の人々の生活、そして中国の近代史における重要な出来事を物語っています。
北京を訪れる際には、ぜひこの頤和園を訪れ、その絵画のような美しさと歴史の重みを肌で感じてください。時間をかけてゆっくりと園内を散策し、その壮大なスケールと細部にわたる美意識に浸ることで、中国の豊かな文化と歴史への理解がより一層深まることでしょう。










よくある質問

頤和園はどこにありますか?
中国の首都、北京市海淀区に位置しています。
頤和園はいつ世界遺産に登録されましたか?
1998年にユネスコの世界文化遺産に登録されました。
頤和園の主な見どころは何ですか?
広大な昆明湖と、湖畔にそびえる万寿山、そしてその斜面に広がる壮麗な建築群です。特に、皇帝の政務所だった仁寿殿、世界最長の画廊である長廊、頤和園のシンボルである仏香閣、そして湖上の十七孔橋や石舫などが人気です。
頤和園を全て見て回るのにどれくらいの時間がかかりますか?
頤和園は非常に広大なため、主要な見どころをじっくり見るなら半日から終日(3時間から5時間以上)は確保することをおすすめします。園内には電動カートも運行しているので、利用すると便利です。
頤和園へはどのようにアクセスするのが便利ですか?
北京市中心部からは、地下鉄の利用が最も便利です。地下鉄4号線の「北宮門駅」や「西苑駅」が最寄りの駅です。
海外ツアー




2.航空券
早割はこちら!<エアトリ>




3.ホテル
【Trip.com】旅行をもっとお得に!




4.アクティビティ
現地と直接つながる【Hello Activity】




5.通信機器
海外旅行者向けeSIMなら VOYAGEESIM




6.スーツケース