「トランス・バウンダリー・サイト」とは、まさにその名の通り「国境を越える遺産」を指します。この概念がなぜこれほどまでに重要視され、注目を集めるようになったのか、その背景には人類の歴史と、地球規模での遺産保護への意識の高まりがあります。
トランス・バウンダリー・サイトの概念は、世界遺産検定を勉強する上で重要です。トランス・バウンダリー・サイトとして登録された世界遺産を巡る旅をしてみると、世界遺産をより深く知ることができて、旅が充実することでしょう。
旅行の計画や世界遺産検定の対策に役立つことを切に願っています。

トランス・バウンダリー・サイトとは
トランス・バウンダリー・サイトとは、「国境を越える遺産」のことです。
そもそも国境というものは人類の歴史が進むにつれて人為的に引かれたラインであり、国境線にとらわれない自然遺産の登録推薦の際には障壁となってしまっている側面がありました。
そこで、多国間の協力のもとで遺産を保護・保全していくためにトランス・バウンダリー・サイトという考え方が共通認識となっていきました。
しかし、これは自然遺産だけの話ではありません。文化遺産でも、かつて1つの民族・国家・文化圏であった地域が近代的な国家の成立で分断されてしまっている例は多数あります。そういったケースでも、トランス・バウンダリー・サイトの考え方は用いられます。
作業指針では、できる限り関係締約国が共同で登録推薦書を作成し、共同管理委員会・機関などを設立して遺産全体の管理を監督することが推奨されています。
また、現在は1つの締約国内にある世界遺産でも、拡大登録によってトランス・バウンダリー・サイトとして扱われるようになることもあります。
人為的な国境と自然・文化の連続性
国境は、私たちが歴史の中で便宜的に引いた「線」に過ぎません。しかし、自然の地形や生態系、あるいは特定の民族の文化や歴史は、これらの人為的な線で分断されるわけではありません。
たとえば、広大な山脈や河川、渡り鳥の移動経路などは、複数の国にまたがって存在します。また、古代の交易路や、かつて一つの帝国や文化圏に属していた地域なども、現代の国境によって分断されているケースが多くあります。
このような状況で、それぞれの国がバラバラに遺産を保護しようとしても、その本質的な価値(例えば、山脈全体の生態系、交易路全体の歴史的意義)を十分に保全することは困難です。トランス・バウンダリー・サイトという概念は、この人為的な国境を超え、自然や文化の持つ本来の連続性を尊重し、一体的に遺産を保護しようとするために生まれました。
国際協力の必要性と平和への貢献
国境を越える遺産を効果的に保護・管理するためには、関係する複数の国々が協力し合うことが不可欠です。例えば、共同で調査を行い、保全計画を策定し、資金を出し合うといった協力体制が求められます。
ユネスコの世界遺産委員会がトランス・バウンダリー・サイトの登録を推進することは、単に遺産を保護するだけでなく、異なる国家間での対話と協力を促すという大きな意味を持ちます。共通の遺産を守るという目標を通じて、政治的・文化的な壁を越えた国際的な連携が生まれることで、ひいては国家間の理解促進と平和構築にも貢献すると期待されています。
「普遍的価値」の最大化
世界遺産は、「顕著な普遍的価値(Outstanding Universal Value: OUV)」を持つと認められたものが登録されます。この普遍的価値は、特定の国や地域に限定されない、人類全体にとって重要な価値を指します。
国境を越えることで初めてその真の価値が認められる遺産も少なくありません。例えば、複数の国にまたがる広大な熱帯雨林や、古代文明の広範な遺跡などは、国境を越えた視点で評価・保護されることで、その**「普遍的価値」が最大限に引き出される**と考えられています。
このように、トランス・バウンダリー・サイトの概念は、単なる遺産登録の形式ではなく、地球規模での環境保全、文化的多様性の尊重、そして国際社会の協調という、より大きなビジョンに根ざしているため、今日ますます注目されているのです。
トランス・バウンダリー・サイトの注意点
トランス・バウンダリー・サイトの例となる世界遺産は、下記が挙げられます。
・ヴィクトリアの滝(ザンビア・ジンバブエ)
・ベルギーとフランスの鐘楼群(ベルギー・フランス)
こうしたケースがある一方で、国境を越える世界遺産であっても別々の遺産として登録されているケースも存在します。例えば、イグアス国立公園はアルゼンチンとブラジルの両方に接していますが、別々に登録されています。
また、サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路についてもスペインとフランスでは別々に登録されており、このケースではトランス・バウンダリー・サイトとはみなされません。
トランス・バウンダリー・サイト(文化遺産)の一覧
トランス・バウンダリー・サイトに登録された、文化遺産の一覧は以下のとおり。
No. | 名称 | 登録国 | 登録年 | 特徴 | 登録基準 |
---|---|---|---|---|---|
1 | ローマの歴史地区 | イタリア、ヴァティカン市国 | 1980年 (1990年拡張) | 古代ローマから続く、歴史と芸術の宝庫たる永遠の都。 | (1),(2),(3),(4),(6) |
2 | グアラニ人のイエズス会ミッション | アルゼンチン・ブラジル | 1983年 (1984年拡張) | 先住民と宣教師が築いた理想郷、赤い砂岩の伝道所群。 | (4) |
3 | コア渓谷とシエガ・ヴェルデの先史時代の岩壁画 | ポルトガル、スペイン | 1998年 (2010年拡張) | 氷河期の人類が描いた、ポルトガルとスペインの野外岩壁画。 | (1),(3) |
4 | ベルギーとフランスの鐘楼群 | ベルギー、フランス | 1999年(2005年拡張) | 市民の自由と自治の象徴、多様な様式を持つ55基の鐘楼群。 | (2),(4) |
5 | クルシュー砂州 | リトアニア、ロシア | 2000年 | バルト海に伸びる、リトアニアとロシアの壮大な砂丘地帯。 | (5),(6) |
6 | フェルテー(ノイジードル)湖の文化的景観 | オーストリア、ハンガリー | 2001年 | オーストリアとハンガリーにまたがる、8千年続く文化的湖沼景観。 | (5),(6) |
7 | ムスカウ公園/ムジャクフ公園 | ドイツ、ポーランド | 2004年 | 独ポーランド国境をまたぐ、19世紀景観公園の傑作。 | (1),(4) |
8 | シュトルーヴェの測地弧 | ベラルーシ、エストニア、フィンランド、ラトビア、リトアニア、ノルウェー、モルドバ、ロシア、スウェーデン、ウクライナ | 2005年 | 10カ国をまたぐ、地球測定のための測量点群。 | (2), (3),(4),(6) |
9 | セネガンビアのストーン・サークル遺跡群 | ガンビア、セネガル | 2006年 | 西アフリカに広がる、謎多き古代ストーン・サークル群。 | (1),(3),(6) |
10 | アルブラとベルニナの景観とレーティッシュ鉄道 | イタリア、スイス | 2008年 | スイスアルプスの絶景を走る、革新的技術の鉄道遺産。 | (2),(4) |
11 | アルプス山脈周辺の先史時代の堀立柱住居群 | オーストリア、フランス、ドイツ、イタリア、スイス | 2011年 | アルプス周辺の湖沼に残る、先史時代の高床式住居跡群。 | (4),(5) |
12 | 水銀関連遺産:アルマデンとイドリア | スロベニア、スペイン | 2012年 | スペインとスロベニアの世界最古級水銀鉱山遺跡群。 | (2),(4) |
13 | ポーランド、ウクライナのカルパチア地方の木造教会 | ポーランド、ウクライナ | 2013年 | カルパチア山脈に点在する、東方教会伝統の木造聖堂群。 | (3),(4) |
14 | カパック・ニャン アンデスの道 | アルゼンチン、ボリビア、チリ、コロンビア、エクアドル、ペルー | 2014年 | インカ帝国が築いた壮大なアンデス山脈の道網。 | (2), (3),(4),(6) |
15 | シルクロード:長安−天山回廊の交易路網 | 中国、カザフスタン、キルギス | 2014年 | 中国から中央アジアへ、東西文化交流を育んだ古代交易路。 | (2),(3),(5),(6) |
16 | モラヴィア教会の入植地群 | デンマーク、アメリカ、ドイツ、イギリス | 2015年(2024年拡張) | 18世紀モラヴィア教会の共同体、独特の社会構造と建築。 | (3),(4) |
17 | ル・コルビュジエの建築作品 ‐ 近代建築運動への顕著な貢献 | アルゼンチン、ベルギー、フランス、ドイツ、インド、日本、スイス | 2016年 | 近代建築の巨匠による、7カ国に点在する革新的な17作品。 | (1),(2),(6) |
18 | 中世墓碑ステチュツィの墓所群 | ボスニア・ヘルツェゴビナ、クロアチア、モンテネグロ、セルビア | 2016年 | バルカン4カ国に点在する、中世の独特な石造墓碑群。 | (3),(4) |
19 | 16 ‐ 17世紀ヴェネツィア共和国の軍事防衛施設群:スタート・ダ・テッラー西部スタート・ダ・マーレ | クロアチア、イタリア、モンテネグロ | 2017年 | ヴェネツィア共和国の領土を守るため築かれた要塞群。 | (3),(4) |
20 | エルツ山地(クルスナホリ)鉱業地域 | チェコ、ドイツ | 2019年 | 800年の歴史を持つ、独チェコ国境の鉱業景観。 | (2),(3),(4) |
21 | 慈善の集団居住地群 | オランダ、ベルギー | 2021年 | 19世紀の貧困問題の解決に向けて作られた農業開拓地 | (2),(4) |
22 | ヨーロッパの大温泉保養都市群 | イギリス、イタリア、オーストリア、チェコ、ドイツ、フランス、ベルギー | 2021年 | 18〜20世紀、欧州の文化交流を育んだ温泉都市群。 | (2),(3) |
23 | ローマ帝国の国境線 – ゲルマニア・インフェリオルのリーメス | ドイツ、オランダ | 2021年 | ローマ帝国北辺の防衛線、ライン川沿いの要塞群。 | (2),(3),(4) |
24 | ローマ帝国の国境線-ドナウのリーメス(西部分) | ドイツ、オーストリア、スロバキア | 2021年 | ドナウ川沿いに築かれた、ローマ帝国の巨大な国境線。 | (2),(3),(4) |
25 | シルクロード:ザラフシャン・カラクム回廊 | タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン | 2023年 | ザラフシャン川とカラクム砂漠を結ぶ、中央アジアの交易路。 | (2),(3),(5) |
26 | 第一次世界大戦(西部戦線)の追悼と追憶の場 | ベルギー、フランス | 2023年 | ベルギー・フランスに広がる、第一次世界大戦の記憶と平和を願う地。 | (3),(4),(6) |
ローマの歴史地区の詳細
ローマの歴史地区
「ローマの歴史地区」は、単に古代ローマ帝国の遺構だけでなく、キリスト教の中心地としての歴史、そしてルネサンスからバロック期にかけての芸術と建築の集積を包含する、比類なき複合遺産です。
この遺産は、単一の建物ではなく、都市全体が織りなす歴史のタペストリーであり、訪れる者に計り知れない感動と学びを提供します。
グアラニ人のイエズス会ミッションの詳細
グアラニ人のイエズス会ミッション
「グアラニ人のイエズス会ミッション群」は、17世紀から18世紀にかけて南米のパラグアイ、アルゼンチン、ブラジルにまたがる地域にイエズス会によって築かれた、グアラニ族のための伝道所群です。これらのミッションは、先住民の文化とキリスト教信仰を融合させ、独自の共同体を形成した点で特異な存在でした。
この遺産は、異なる文化が出会い、融合しようとした歴史的な試みを物語っており、その建築物と遺跡群は、当時の社会、宗教、芸術、そして人々の生活を今に伝える貴重な証拠となっています。
コア渓谷とシエガ・ヴェルデの先史時代の岩壁画の詳細
コア渓谷とシエガ・ヴェルデの先史時代の岩壁画
「コア渓谷とシエガ・ヴェルデの先史時代の岩壁画」は、ポルトガル北東部のコア渓谷とスペイン西部のシエガ・ヴェルデにまたがる、旧石器時代後期に描かれた野外岩壁画の遺跡群です。これらは、ヨーロッパにおける後期旧石器時代の芸術活動が、洞窟だけでなく屋外でも広く行われていたことを示す、非常に貴重な証拠となっています。
この遺産は、人類が残した最も古い芸術表現の一つであり、旧石器時代の人々の生活、信仰、そして美的感覚を解き明かす上で、計り知れない価値を持っています。
ベルギーとフランスの鐘楼群の詳細
ベルギーとフランスの鐘楼群
「ベルギーとフランスの鐘楼群」は、ベルギーの32か所とフランスの23か所、合計55か所の歴史的な鐘楼からなる複合世界遺産です。これらの鐘楼は、中世から近代にかけて、都市の自由と自治、そして繁栄を象徴する役割を果たしました。単なる時を告げる塔としてだけでなく、見張り台や市庁舎の一部としても機能し、市民生活の中心となっていました。
これらの鐘楼は、それぞれが地域の歴史と文化を刻みながら、市民のアイデンティティと都市の発展を見守ってきた象徴として、今日でも多くの人々に愛されています。
クルシュー砂州の詳細
クルシュー砂州
「クルシュー砂州」は、リトアニアとロシア(カリーニングラード州)の国境にまたがる、バルト海沿岸に形成された細長く伸びる砂の半島です。この砂州は、その壮大な自然美と、独特な生態系、そして長年にわたる人間の活動によって形成された文化的景観が評価されています。移動する砂丘、独特な植生、そして漁村の集落が織りなす景観は、他に類を見ないものです。
クルスキー砂州は、自然の力強さと、それに適応し、共生してきた人々の営みが織りなす、他に類を見ない文化的景観として、その普遍的価値が認められています。
フェルテー(ノイジードル)湖の文化的景観の詳細
フェルテー(ノイジードル)湖の文化的景観
「フェルテー(ノイジードル)湖の文化的景観」は、オーストリアとハンガリーの国境にまたがる、中央ヨーロッパ最大のステップ湖と周辺地域の文化的景観です。この地域は、8千年以上にわたる人類の活動と、ユニークな自然環境が相互作用して形成された、他に類を見ない多様な文化的特徴を有しています。
フェルテー(ノイジードル)湖の文化的景観は、人類が自然環境と共生し、独自の文化を育んできた長い歴史を物語る、貴重な証拠です。
ムスカウ公園/ムジャクフ公園の詳細
ムスカウ公園/ムジャクフ公園
「ムスカウ公園/ムジャクフ公園(Muskauer Park / Park Mużakowski)」は、ドイツとポーランドの国境をまたがる、広大な景観公園です。19世紀にヘルマン・フォン・ピュックラー=ムスカウ侯爵によって設計されたこの公園は、景観デザインの歴史において傑出した例とされています。自然の地形を最大限に生かし、絵画的な美しさを追求したそのデザインは、ヨーロッパの景観芸術に大きな影響を与えました。
ムスカウ公園は、国境によって分断された現在でも、その一体的な美しさと歴史的価値が認められているという点で、特別な意義を持つ文化的景観遺産です。
シュトルーヴェの測地弧の詳細
シュトルーヴェの測地弧
「シュトルーヴェの測地弧」は、19世紀に地球の正確な形状と大きさを測定するために建設された、壮大な科学的プロジェクトの遺産です。
シュトルーヴェの測地弧は、ノルウェーから黒海まで、実に10カ国にまたがる測量点(三角点)の鎖で構成されており、当時の最先端技術と国際協力を象徴する貴重な科学遺産です。
セネガンビアのストーン・サークル遺跡群の詳細
セネガンビアのストーン・サークル遺跡群
「セネガンビアのストーン・サークル遺跡群」は、西アフリカのセネガルとガンビアにまたがる地域に点在する、謎に包まれた巨大な石の輪(ストーン・サークル)と墳墓からなる古代遺跡です。これらの遺跡は、紀元前3世紀から紀元後16世紀頃にかけて築かれたとされ、当時の高度な社会組織と葬儀文化を今に伝えています。
セネガンビアのストーン・サークル遺跡群は、西アフリカの古代文明とその葬儀文化、そして壮大な石造建築の技術を今に伝える、極めて重要な考古学的遺産です。
アルブラとベルニナの景観とレーティッシュ鉄道の詳細
アルブラとベルニナの景観とレーティッシュ鉄道
「アルブラとベルニナの景観とレーティッシュ鉄道」は、スイスのグリソン州にある、アルプス山脈の壮大な景観の中を走る傑出した鉄道インフラです。この遺産は、19世紀末から20世紀初頭にかけての鉄道建設技術の偉業と、鉄道が周辺の景観や地域社会に与えた影響を物語るものです。
この遺産は、単なる交通手段にとどまらず、鉄道建設が困難な自然環境を克服し、美しい景観と一体となった技術的・美的傑作として評価されています。
アルプス山脈周辺の先史時代の堀立柱住居群の詳細
アルプス山脈周辺の先史時代の堀立柱住居群
「アルプス山脈周辺の先史時代の堀立柱住居群(Prehistoric Pile Dwellings around the Alps)」は、アルプス地方の湖や川、湿地帯に点在する、新石器時代(紀元前5000年頃)から青銅器時代(紀元前500年頃)にかけての人々の生活を伝える考古学遺跡群です。これらは、水辺に杭を打ち込んで床を高くした独特の住居(杭上住居、または高床住居)の跡であり、当時の農耕、牧畜、そして狩猟採集の生活様式に関する貴重な情報を提供します。
この遺産は、氷河期の終わりから始まるアルプス地方における人類の居住と環境適応の歴史を、非常に詳細な形で知る手がかりとなる、他に類を見ない考古学的宝庫です。
水銀関連遺産:アルマデンとイドリアの詳細
水銀関連遺産:アルマデンとイドリア
「水銀関連遺産:アルマデンとイドリア」は、スペインのアルマデンとスロベニアのイドリアという、世界で最も重要な2つの水銀鉱山遺跡からなる複合遺産です。これらの鉱山は、数世紀にわたって世界経済と科学技術の発展に大きな影響を与え、水銀採掘の歴史と技術の進化を示す比類ない証拠を提供しています。
この遺産は、水銀が人類の歴史において果たした重要な役割と、それを取り巻く技術革新、そして労働者の生活と社会構造の発展を物語る、他に類を見ない産業遺産です。
ポーランド、ウクライナのカルパチア地方の木造教会の詳細
ポーランド、ウクライナのカルパチア地方の木造教会
「ポーランド、ウクライナのカルパチア地方の木造教会群」は、東方正教とギリシャ・カトリック教会の伝統を反映した、独特の木造建築様式を誇る遺産群です。
この遺産は、東欧の深い信仰心と、厳しい自然環境に適応した人々の知恵が息づく、地域独自の建築文化と精神性を物語る貴重な存在です。
カパック・ニャン アンデスの道の詳細
カパック・ニャン アンデスの道
「カパック・ニャン アンデスの道(Qhapaq Ñan, Andean Road System)」は、南米大陸を縦断する壮大なインカ帝国の道網で、その全長は3万kmにも及ぶとされます。エクアドル、コロンビア、ペルー、ボリビア、チリ、アルゼンチンの6カ国にまたがり、アンデス山脈の厳しい地形と多様な生態系に適応した、驚くべき土木技術と景観デザインの傑作です。この道は、インカ帝国の政治、経済、軍事、社会、文化の基盤を支えました。
カパック・ニャンは、単なる物理的な道路網に留まらず、アンデス文明の高度な組織力、自然への適応力、そして豊かな精神世界を物語る、人類共通の遺産です。
シルクロード:長安−天山回廊の交易路網の詳細
シルクロード:長安−天山回廊の交易路網
「シルクロード:長安−天山回廊の交易路網」は、古代から中世にかけてユーラシア大陸を結び、文明間の大規模な交流を可能にした、広大な交易路の一部です。中国の長安(現在の西安)を起点とし、天山山脈の南北を通って中央アジアに至るこの回廊は、人、物資、技術、思想、宗教が活発に行き交った、人類史における重要な道でした。
このシルクロードは、単なる物理的な道ではなく、人類の歴史における最も重要な文化交流の動脈であり、今日においてもその壮大な物語と普遍的価値を私たちに伝えています。
モラヴィア教会の入植地群の詳細
モラヴィア教会の入植地群
「モラヴィア教会の入植地群」は、18世紀に世界各地に広がったモラヴィア兄弟団(モラヴィア教会)のコミュニティを代表する、特定の入植地群を指します。これらは、その独特な社会組織、共同生活、そして教育や宣教活動を通じて、世界のさまざまな地域で文化的・社会的な影響を与えました。
この遺産は、宗教的信仰に基づく理想的な共同体の形成とその実践が、どのようにして特定の建築様式や社会構造を生み出し、世界各地に広範な影響を与えたかを物語る、非常に興味深い文化的景観です。
ル・コルビュジエの建築作品 ‐ 近代建築運動への顕著な貢献の詳細
ル・コルビュジエの建築作品 ‐ 近代建築運動への顕著な貢献

「ル・コルビュジエの建築作品 ‐ 近代建築運動への顕著な貢献」は、20世紀の建築と都市計画に革命をもたらした建築家ル・コルビュジエ(シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ)の7カ国17作品からなる複合遺産です。これらの作品は、近代建築の原理を具現化し、世界中の建築思想と実践に計り知れない影響を与えました。
この遺産は、ル・コルビュジエがいかにして近代建築の思想と様式を確立し、世界中に広めたかを示す、生きた証拠であり、建築史における重要な転換点を示しています。
中世墓碑ステチュツィの墓所群の詳細
中世墓碑ステチュツィの墓所群
「中世墓碑ステチュツィの墓所群」は、ボスニア・ヘルツェゴビナ、クロアチア、モンテネグロ、セルビアの4カ国にまたがる、中世後期にバルカン半島の広い地域で出現した独特の墓碑「ステチュツィ(Stećci)」の集中地域です。これらの墓碑は、12世紀から16世紀にかけて作られ、キリスト教(正教とカトリック)、イスラム教の影響を受ける前のこの地域の宗教的・文化的伝統を反映しています。
ステチュツィは、その多様な形態と装飾、そして広範な分布を通じて、中世バルカン半島の複雑な歴史と多文化的な社会の様相を今に伝える、非常に貴重な文化遺産です。
16 ‐ 17世紀ヴェネツィア共和国の軍事防衛施設群:スタート・ダ・テッラー西部スタート・ダ・マーレの詳細
16 ‐ 17世紀ヴェネツィア共和国の軍事防衛施設群:スタート・ダ・テッラー西部スタート・ダ・マーレ
「16‐17世紀ヴェネツィア共和国の軍事防衛施設群:スタート・ダ・テッラー西部スタート・ダ・マーレ」は、ヴェネツィア共和国がその広大な領土を守るために16世紀から17世紀にかけて築き上げた、革新的な軍事防衛システムの傑作です。これらの施設は、近代的な築城技術の発展を示し、地中海の海軍力と陸上防衛戦略におけるヴェネツィアの優位性を物語っています。
この遺産は、ルネサンス期からバロック期にかけての軍事技術と築城術の進化を具体的に示し、当時の地中海におけるヴェネツィアの戦略的野心と防衛思想を伝える貴重な証拠となっています。
エルツ山地(クルスナホリ)鉱業地域の詳細
エルツ山地(クルスナホリ)鉱業地域
「エルツ山地(クルスナホリ)鉱業地域」は、ドイツとチェコ共和国の国境にまたがる地域で、800年以上にわたる鉱業の歴史と、それに伴って発展した独自の景観、技術、文化遺産を物語る場所です。中世から近代にかけて、銀、錫、コバルト、ウランなど多様な鉱物が採掘され、ヨーロッパ経済に大きな影響を与えました。
エルツ山地は、資源開発が地域社会と景観に与えた影響の歴史を今に伝える、非常に貴重な産業遺産であり、国際的な鉱業技術発展の拠点でもありました。
慈善の集団居住地群の詳細
慈善の集団居住地群
「慈善の集団居住地群(Colonias de Caridad / Colonies of Benevolence)」は、19世紀初頭にオランダで設立された、貧困問題への革新的なアプローチを示すユニークな社会改革プロジェクトの遺産です。これらの入植地は、貧しい人々を都市部から地方に移住させ、農業や手工業を通じて自立を促すことを目的としていました。
この遺産は、貧困問題に対する先駆的な社会実験として、また、当時の社会思想が都市計画や共同体のあり方にどのように反映されたかを示す、非常に貴重な証拠となっています。
ヨーロッパの大温泉保養都市群の詳細
ヨーロッパの大温泉保養都市群
「ヨーロッパの大温泉保養都市群(The Great Spa Towns of Europe)」は、18世紀から20世紀初頭にかけて、ヨーロッパ文化の発展に重要な役割を果たした11の歴史的な温泉都市からなる複合世界遺産です。これらの都市は、温泉水の医療利用と、それに伴う社交、レクリエーション、文化活動が融合した独特のライフスタイルを育みました。
この遺産は、単なる温泉地以上の意味を持ち、ヨーロッパの社交、文化、医療の歴史を物語る、生きた博物館のような存在です。
ローマ帝国の国境線 – ゲルマニア・インフェリオルのリーメスの詳細
ローマ帝国の国境線 – ゲルマニア・インフェリオルのリーメス
「ローマ帝国の国境線 – ゲルマニア・インフェリオルのリーメス」は、ローマ帝国の広大な防衛システムの一部であり、その軍事、建築、そして占領地域の社会経済的影響を示す貴重な考古学的遺産です。
このリーメスは、かつてのローマ帝国の壮大な規模と、その支配の及ぶ範囲を物理的に示すものとして、歴史的な重要性と考古学的な価値を併せ持っています。
ローマ帝国の国境線-ドナウのリーメス(西部分)の詳細
ローマ帝国の国境線-ドナウのリーメス(西部分)
「ローマ帝国の国境線 – ドナウのリーメス(西部分)」は、ヨーロッパ最大の河川の一つであるドナウ川に沿って築かれた、ローマ帝国の広大な防衛システムの重要なセクションです。この遺産は、当時の軍事技術、建設能力、そして帝国の境界管理の複雑さを物語っています。
シルクロード:ザラフシャン・カラクム回廊の詳細
シルクロード:ザラフシャン・カラクム回廊
「シルクロード:ザラフシャン・カラクム回廊」は、シルクロードの重要な部分を構成し、中央アジアのサマルカンド(ウズベキスタン)を中心に、肥沃なザラフシャン川流域から広大なカラクム砂漠を横断する交易路です。この回廊は、特に7世紀から16世紀にかけて、東西の交易と文化交流において極めて重要な役割を果たしました。
この回廊は、単なる交易路としてだけでなく、厳しい自然環境下での人々の適応、都市の発展、そして多様な文化が交錯した歴史を物語る、極めて重要な文化遺産です。
第一次世界大戦(西部戦線)の追悼と追憶の場の詳細
第一次世界大戦(西部戦線)の追悼と追憶の場
「第一次世界大戦(西部戦線)の追悼と追憶の場」は、ベルギーとフランスにまたがる、第一次世界大戦の激戦地であった西部戦線における数多くの記念碑、墓地、戦場跡などで構成される世界遺産候補地です。この遺産は、戦争の犠牲者を追悼し、その記憶を後世に伝えるための、極めて重要な場所となっています。
この遺産は、未来への教訓として戦争の記憶を継承し、平和の重要性を訴える普遍的なメッセージを持つ場所として、その登録が期待されています。
トランス・バウンダリー・サイト(自然遺産)の一覧
トランス・バウンダリー・サイトに登録された、自然遺産の一覧は以下のとおり。
No. | 名称 | 登録国 | 登録年 | 特徴 | 登録基準 |
---|---|---|---|---|---|
1 | ベロヴェシュカヤ・プーシャ/ビャウォヴィエジャ森林保護区 | ベラルーシ、ポーランド | 1979年(1992年・2014年拡張) | 欧州唯一の広大な原生林、ヨーロッパバイソンの最大の生息地。 | (8),(10) |
2 | アラスカ・カナダ国境地帯の山岳公園群 | カナダ、アメリカ | 1979年(1992年・1994年拡張) | 北米最大級の氷原と壮大な山々が広がる、手つかずの自然。 | (7),(8),(9),(10) |
3 | ニンバ山厳正自然保護区 | コートジボアール、ギニア | 1981年(1982年拡張) | 西アフリカに広がる、多様な生態系と希少種豊かな厳正自然保護区。 | (7),(10) |
4 | タラマンカ山脈 ‐ ラ・アミスター自然保護区群/ラ・アミスター国立公園 | コスタリカ、パナマ | 1983年(1990年拡張) | コスタリカとパナマに広がる、中米最大の熱帯林と生物多様性の宝庫。 | (7),(8),(9),(10) |
5 | ヴィクトリアの滝(モシ・オ・トゥニャ) | ザンビア、ジンバブエ | 1989年 | ザンビアとジンバブエ国境に轟く、世界最大級の壮大な滝。 | (7),(8) |
6 | アグテレク・カルストとスロバキア・カルストの洞窟群 | ハンガリー、スロバキア | 1995年(2000年拡張) | ハンガリーとスロバキアに広がる、多様な鍾乳洞からなるカルスト地形。 | (8) |
7 | ウォータートン・グレーシャー国際平和自然公園 | カナダ、アメリカ | 1995年 | カナダと米国にまたがる、世界初の国際平和公園。 | (7),(9),(10) |
8 | W-アルリ-ペンジャリ自然公園群 | ベナン、ブルキナファソ、ニジェール | 1996年(2000年拡張) | ニジェール川のW字蛇行が名の由来、西アフリカの生態系の宝庫。 | (9),(10) |
9 | ヘーガ・クステン/クヴァルケン群島 | フィンランド、スウェーデン | 2000年(2006年拡張) | 氷河期後の地殻隆起が続く、スウェーデン・フィンランドの景観。 | (8) |
10 | サン・ジョルジオ山 | イタリア、スイス | 2003年(2010年拡張) | スイスイタリア国境に位置する、三畳紀海洋生物の化石の宝庫。 | (8) |
11 | ウヴス・ヌール盆地 | モンゴル、ロシア | 2003年 | モンゴルとロシアに広がる、多様な生態系を持つ閉鎖型盆地。 | (9),(10) |
12 | カルパティア山脈の原始ブナ林とドイツの古代ブナ林 | アルバニア、オーストリア、ベルギー、 ブルガリア、クロアチア、ドイツ、 イタリア、ルーマニア、スロバキア、 スロベニア、スペイン、ウクライナ、 フランス、ポーランド、スイス、ボスニア・ヘルツェゴビナ、チェコ、北マケドニア | 2007年(2011年・2021年拡張) | 最終氷期後のヨーロッパにおける、手つかずのブナ林拡大の証。計18か国 | (9),(10) |
13 | ワッデン海 | デンマーク、ドイツ、オランダ | 2009年(2014年・2016年拡張) | オランダ・独・デンマークに広がる、世界最大の干潟と渡り鳥の楽園。 | (8),(9),(10) |
14 | サンガ川流域の3カ国保護地域 | カメルーン、中央アフリカ、コンゴ共和国 | 2012年 | 中部アフリカ3カ国に広がる、手つかずの熱帯雨林と生物多様性の宝庫。 | (9),(10) |
15 | 西天山 | カザフスタン、キルギス、ウズベキスタン | 2016年 | カザフ・キルギス・ウズベクに広がる、果物原種と多様な生態系の山岳地。 | (10) |
16 | ダウリアの景観群 | モンゴル、ロシア | 2017年 | モンゴル・ロシア国境、乾燥地帯の渡り鳥とステップ生態系。 | (9),(10) |
17 | トゥランの寒冬の砂漠群 | トルクメニスタン、カザフスタン、ウズベキスタン | 2023年 | カザフ・トルクメン・ウズベクに広がる、酷寒の冬を持つ砂漠群。 | (9),(10) |
ベロヴェシュカヤ・プーシャ/ビャウォヴィエジャ森林保護区の詳細
ベロヴェシュカヤ・プーシャ/ビャウォヴィエジャ森林保護区
「ベロヴェシュカヤ・プーシャ/ビャウォヴィエジャ森林保護区(Białowieża Forest)」は、ポーランドとベラルーシの国境にまたがる、ヨーロッパに残された唯一の広大な原生林です。ここは、かつてヨーロッパ大陸を覆っていた広大な原生林の最後の名残であり、ヨーロッパバイソン(オーロックスの末裔)の最大の生息地でもあります。その手つかずの自然は、生物多様性の豊かさと、森林生態系の進化の歴史を物語る、他に類を見ない場所です。
この森林保護区は、人類の干渉をほとんど受けていないヨーロッパの太古の森がどのような姿であったかを示す貴重な窓であり、地球の生物多様性を守る上で極めて重要な意味を持つ場所です。
アラスカ・カナダ国境地帯の山岳公園群の詳細
アラスカ・カナダ国境地帯の山岳公園群
「アラスカ・カナダ国境地帯の山岳公園群」は、カナダのブリティッシュコロンビア州とユーコン準州、そしてアメリカ合衆国のアラスカ州にまたがる広大な地域に設定された一連の国立公園と自然保護区からなる複合世界遺産です。この地域は、地球上で最大の非極地氷原を有し、雄大な山々、広大な氷河、多様な野生生物が生息する、他に類を見ない手つかずの自然を誇ります。
この広大な山岳公園群は、地球の壮大な自然の営みと、手つかずの生態系が織りなす生命の多様性を示す、まさに地球の宝というべき場所です。
ニンバ山厳正自然保護区の詳細
ニンバ山厳正自然保護区
「ニンバ山厳正自然保護区(Mount Nimba Strict Nature Reserve)」は、ギニア、コートジボワール、リベリアの三国国境にまたがる、西アフリカの貴重な自然保護区です。この地域は、標高1,752mのニンバ山を中心に、手つかずの熱帯雨林、サバンナ、高山草原など、多様な生態系がモザイク状に広がり、極めて豊かな生物多様性を誇ります。特に、エンペラー・ニューツや特別な種のヒキガエルなど、固有種や絶滅危惧種が多く生息しています。
ニンバ山厳正自然保護区は、西アフリカにおける生物多様性の最後の砦の一つであり、そのユニークな生態系と希少種の宝庫としての価値は、人類全体にとって非常に重要です。しかし、鉱物採掘の脅威にさらされており、危機遺産リストに登録されています。
タラマンカ山脈 ‐ ラ・アミスター自然保護区群/ラ・アミスター国立公園の詳細
タラマンカ山脈 ‐ ラ・アミスター自然保護区群/ラ・アミスター国立公園
「タラマンカ山脈 ‐ ラ・アミスター自然保護区群/ラ・アミスター国立公園(Talamanca Range – La Amistad Reserves / La Amistad National Park)」は、コスタリカとパナマの国境にまたがる、中央アメリカ最大級の熱帯林地帯です。この広大な保護区は、その壮大な自然美、極めて多様な生態系、そして先住民コミュニティの存在によって、文化的・自然的な価値を兼ね備えています。
タラマンカ山脈 ‐ ラ・アミスター自然保護区群は、手つかずの広大な自然が育む生命の多様性と、そこに暮らす先住民の文化が共存する、地球規模で重要な生態系と文化の宝庫です。
ヴィクトリアの滝(モシ・オ・トゥニャ)の詳細
ヴィクトリアの滝(モシ・オ・トゥニャ)
「ヴィクトリアの滝(モシ・オ・トゥニャ)」(Mosi-oa-Tunya / Victoria Falls)は、ザンビアとジンバブエの国境に位置する、世界最大級の滝です。「モシ・オ・トゥニャ」とは、現地語ロジ語で「雷鳴のとどろく煙」を意味し、その名の通り、大量の水が落下する際に生じる轟音と水しぶきが遠くまで響き渡り、巨大な霧の柱を形成する壮大な自然現象です。
ヴィクトリアの滝は、その圧倒的なスケールと自然の力強さが織りなす、地球上で最も印象的な自然現象の一つであり、アフリカを代表する自然遺産です。
アグテレク・カルストとスロバキア・カルストの洞窟群の詳細
アグテレク・カルストとスロバキア・カルストの洞窟群
「アグテレク・カルストとスロバキア・カルストの洞窟群」は、ハンガリーのアグテレク国立公園とスロバキアのスロバキア・カルスト国立公園にまたがる、約1,000にも及ぶ洞窟からなる広大なカルスト地形のシステムです。この地域は、その地質学的・地形学的な重要性、そして独特な生物相によって、世界遺産に登録されています。
この洞窟群は、地下に広がる神秘的な世界であり、その地質学的価値だけでなく、多くの希少な生物が生息する独特な生態系としても、地球の自然遺産として極めて重要な場所です。
ウォータートン・グレーシャー国際平和自然公園の詳細
ウォータートン・グレーシャー国際平和自然公園
「ウォータートン・グレーシャー国際平和自然公園(Waterton-Glacier International Peace Park)」は、カナダのアルバータ州にあるウォータートン・レイクス国立公園と、アメリカ合衆国モンタナ州にあるグレーシャー国立公園からなる、世界初の国際平和公園です。この公園は、その壮大な山岳景観、氷河によって削られた地形、多様な生態系、そして二国間協力による保護の成功例として評価されています。
この公園は、国境を越えて自然を保護するという先進的な取り組みの象徴であり、自然遺産としての価値だけでなく、平和と協力の精神を体現する特別な場所として世界にその名を轟かせています。
W-アルリ-ペンジャリ自然公園群の詳細
W-アルリ-ペンジャリ自然公園群
西アフリカのニジェール、ブルキナファソ、ベナンにまたがる「W-Arly-Pendjari Complex」(W-アルリ-ペンジャリ自然公園群)です。ニジェール川が「W」の字に曲がりくねっていることに由来して名付けられた「W国立公園」が元になっており、後に隣接する国立公園と統合・拡張されました。
この公園群は、西アフリカのサバンナ生態系の最も広範で重要な手つかずの地域として、その生物多様性の豊かさと生態学的プロセスの重要性から、世界的な価値が認められています。
ヘーガ・クステン/クヴァルケン群島の詳細
ヘーガ・クステン/クヴァルケン群島
「ヘーガ・クステン/クヴァルケン群島(High Coast / Kvarken Archipelago)」は、スウェーデンの「ヘーガ・クステン(高海岸)」と、フィンランドの「クヴァルケン群島」からなる複合世界遺産です。この地域は、氷河が溶けた後に地面が急速に隆起する「ポスト氷期地殻隆起」という、地球規模の地質学的プロセスが現在も進行中であることの傑出した証拠として評価されています。
ヘーガ・クステン/クヴァルケン群島は、地球が刻々と変化し続けるダイナミックな姿を、私たちが目の当たりにできる貴重な場所であり、地質学的な重要性が際立つ自然遺産です。
サン・ジョルジオ山の詳細
サン・ジョルジオ山
「サン・ジョルジオ山(Monte San Giorgio)」は、スイスとイタリアの国境にまたがる、三畳紀(約2億4700万年前から2億3700万年前)の海洋生物の化石が極めて豊富に産出する、世界的に重要な古生物学的遺跡です。かつて海底であったこの山からは、特に魚竜や板歯類といった海生爬虫類、魚類、そして無脊椎動物の化石が驚くほど良い状態で発見されており、当時の海洋生態系を詳細に知ることができます。
サン・ジョルジオ山は、太古の地球に存在した海の生態系を私たちに教えてくれる、まさに「化石の山」と呼ぶにふさわしい、科学的に非常に価値の高い自然遺産です。
ウヴス・ヌール盆地の詳細
ウヴス・ヌール盆地
「ウヴス・ヌール盆地(Uvs Nuur Basin)」は、モンゴルとロシア(トゥヴァ共和国)の国境にまたがる、中央アジア最大の広大な閉鎖型盆地です。この地域は、地球上で最も北に位置する砂漠(カラクム砂漠)から、草原、森林、高山帯まで、極めて多様な生態系が垂直的に分布しており、驚くべき生物多様性を誇ります。盆地の中心には、汽水湖であるウヴス・ヌール湖があり、多くの渡り鳥の重要な休息地となっています。
ウヴス・ヌール盆地は、中央アジアの広大な自然の営みと、その中に息づく多様な生命の営みを雄弁に物語る、貴重な自然遺産です。
カルパティア山脈の原始ブナ林とドイツの古代ブナ林の詳細
カルパティア山脈の原始ブナ林とドイツの古代ブナ林
「カルパティア山脈の原始ブナ林とドイツの古代ブナ林(Primeval Beech Forests of the Carpathians and Ancient Beech Forests of Germany)」は、ヨーロッパ大陸に残された、手つかずのブナ林からなる広大な世界遺産です。この遺産は、最終氷期以降のヨーロッパにおけるブナ林の拡大と適応、そしてその生態学的プロセスを示す、他に類を見ない証拠として評価されています。
この広大なブナ林は、単に美しい景観を提供するだけでなく、ヨーロッパの森林生態系の歴史と進化を物語る、まさに生きた博物館と言えるでしょう。
ワッデン海の詳細
ワッデン海
「ワッデン海(Wadden Sea)」は、オランダ、ドイツ、デンマークの3カ国にまたがる、世界最大の干潟と湿地帯からなるユニークな沿岸生態系です。この広大な地域は、潮の満ち引きによって干潟が露出し、その豊かな栄養分が膨大な数の渡り鳥や海洋生物を育む、地球上で最も重要なエコシステムの一つとして知られています。
ワッデン海は、その比類なき生態系の豊かさ、ダイナミックな自然現象、そして地球規模での渡り鳥の生命を支える役割から、極めて高い普遍的価値を持つ自然遺産です。
サンガ川流域の3カ国保護地域の詳細
サンガ川流域の3カ国保護地域
「サンガ川流域の3カ国保護地域(Sangha Trinational)」は、カメルーン、中央アフリカ共和国、コンゴ共和国の3カ国にまたがる、中央アフリカの広大な熱帯雨林地帯に設定された複合保護地域です。この地域は、手つかずの熱帯雨林、湿地、そしてサバンナがモザイク状に広がり、ゴリラ、チンパンジー、アフリカゾウ、オカピなど、多くの絶滅危惧種や希少種を含む極めて豊かな生物多様性を誇ります。人間の活動による影響が少なく、熱帯林の生態系が健全な状態で維持されていることが特徴です。
サンガ川流域の3カ国保護地域は、人類が守るべき地球の肺の一つであり、その広大な熱帯林と豊かな生命は、未来世代に引き継ぐべきかけがえのない自然遺産です。
西天山の詳細
西天山
「西天山(Western Tien-Shan)」は、カザフスタン、キルギス、ウズベキスタンの3カ国にまたがる壮大な山岳地帯です。世界最大級の山脈である天山山脈の一部をなし、標高700mから4,503mに及ぶ多様な景観と、極めて豊かな生物多様性を誇ります。特に、リンゴやナシ、ブドウなど、現在栽培されている多くの果物の原種が自生する「遺伝資源の宝庫」としても国際的に重要視されています。
西天山は、その雄大な自然景観だけでなく、地球上の生物多様性、特に植物の進化と保全において、極めて重要な役割を果たす場所として評価されています。
ダウリアの景観群の詳細
ダウリアの景観群
「ダウリアの景観群(Landscapes of Dauria)」は、モンゴルとロシアの国境をまたがる、中央アジアと東アジアの移行帯に位置するユニークな草原生態系です。この広大な地域は、非常に重要な湿地、湖、ステップ(草原)、そして森林ステップのモザイクからなり、特に渡り鳥の主要な中継地および繁殖地として、地球規模での生物多様性保全に不可欠な役割を担っています。
ダウリアの景観群は、渡り鳥の生命を支える広大な自然の営みと、中央アジア特有の草原生態系の多様性を示す、地球規模で極めて重要な自然遺産です。
トゥランの寒冬の砂漠群の詳細
トゥランの寒冬の砂漠群
「トゥランの寒冬の砂漠群(Cold Winter Deserts of Turan)」は、中央アジアのカザフスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの3カ国にまたがる、極端な大陸性気候(酷暑の夏と酷寒の冬)を特徴とする広大な砂漠地帯です。この地域の砂漠は、独特の植生と動物相を有しており、過酷な環境に適応した生命の多様性と、砂漠生態系の進化に関する重要な情報を提供します。
トゥランの寒冬の砂漠群は、極端な気候条件が育む独特の生態系と生物多様性を物語る、地球の自然遺産として極めて重要な場所です。
トランス・バウンダリー・サイト(複合遺産)の一覧
トランス・バウンダリー・サイトに登録された、複合遺産は1件です。
No. | 名称 | 登録国 | 登録年 | 特徴 | 登録基準 |
---|---|---|---|---|---|
1 | ピレネー山脈のペルデュ山 | スペイン、フランス | 1997年 (1999年拡張) | フランスとスペインにまたがる、壮大な山岳自然と牧畜文化の景観。複合遺産 | (3),(4),(5),(7),(8) |
ピレネー山脈のペルデュ山
「ピレネー山脈のペルデュ山(Pyrénées – Mont Perdu)」は、フランスとスペインの国境にまたがる、壮大な自然美と独特の文化的景観が融合した複合世界遺産です。この地域は、氷河によって形成された劇的な地形と、何世紀にもわたって牧畜を営んできた人々の生活が織りなす、他に類を見ない文化的景観を保持しています。
ピレネー山脈のペルデュ山は、自然の力強さと人間の営みが共存する、真にユニークな景観を提示しており、自然遺産と文化遺産の両方の価値を持つ複合遺産として登録されています。この雄大な景観は、訪れる人々にどのような感動を与えてくれるでしょう。
まとめ
トランス・バウンダリー・サイト一覧【2024年最新版】を紹介しました。
・トランス・バウンダリー・サイトとは、「国境を越える遺産」のことです。
・国境を越える世界遺産であっても別々の遺産として登録されているケースも存在します。
・例えば、イグアス国立公園はアルゼンチンとブラジルの両方に接していますが、別々に登録されています。
・例えば、サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路についてもスペインとフランスでは別々に登録されています。
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世界遺産に興味を持たれた方は、世界遺産検定に挑戦してみてはいかがでしょうか。
世界遺産検定公式HP






よくある質問
トランスバウンダリーサイトとは何ですか?
トランスバウンダリーサイトとは、複数の国にまたがって存在するユネスコ世界遺産のことです。地理的に連続していたり、共通のテーマや価値を共有していたりする資産が、国境を越えて一体のものとして登録されます。国境を越える世界遺産であっても別々の遺産として登録されているケースも存在します。
なぜトランスバウンダリーサイトが存在するのですか?
主に以下の理由があります。
- 地理的連続性: 自然景観や生態系、山脈、河川、海域などが国境をまたいで広がっている場合。
- 歴史的・文化的連続性: 共通の歴史、文化、建築様式、生活様式を持つ地域が国境で分断されている場合。
- 普遍的価値の最大化: 一つの国だけではその「顕著な普遍的価値(Outstanding Universal Value)」を完全に表現できない場合、複数の国が協力して資産を構成することで、その価値がより明確になります。
- 平和と協力の促進: 国境を越えた共同管理は、関係国間の協力と理解を深め、平和構築に貢献します。
トランスバウンダリーサイトの管理はどのように行われますか?
各国の世界遺産当局がそれぞれの国内の資産を管理しますが、トランスバウンダリーサイト全体としての価値を維持するため、関係国間で共同管理計画や協力協定が結ばれることが一般的です。定期的な合同会議や情報交換が行われ、統一的な保全戦略が実施されます。
日本にトランスバウンダリーサイトはありますか?
いいえ、現在(2025年6月時点)、日本が関係するトランスバウンダリーサイトは存在しません。日本の世界遺産はすべて国内に完結しています。
トランスバウンダリーサイトの登録にはどのような課題がありますか?
複数の国が関わるため、以下のような課題が生じることがあります。
- 調整と合意形成: 各国の異なる法制度、行政システム、優先順位を調整し、共通の管理目標を設定すること。
- 財源と人材の確保: 共同プロジェクトに必要な資金や専門知識を関係国間で公平に分担すること。
- 政治的関係: 関係国間の政治情勢が管理に影響を与える可能性。
- 言語と文化の壁: 異なる言語や文化を持つ担当者間の円滑なコミュニケーション。
シリアル・ノミネーション・サイトとは何ですか?
背景に繋がりがある遺産が点在して登録されることであり、同じ国、または複数の国に遺産が点在していれば認められる(必ずしも複数の国にまたがっている必要はない)。
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