抹消された世界遺産と危機遺産一覧【2023年最新版】

 

抹消された世界遺産と危機遺産一覧【2023年最新版】

各国から推薦され、世界遺産委員会で評価されて世界遺産に登録されますが、武力紛争、自然災害、都市開発、観光開発などにより、その顕著な普遍的価値を損なうような重大な危機にさらされている世界遺産は、「危機遺産リスト」に登録されます。価値が損なわれたと判断された場合は、世界遺産登録が抹消されます。

世界遺産の抹消とは?

 
知床 自然遺産
shiretoko

世界遺産登録の抹消は、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)が指定した世界遺産リストから特定の文化遺産または自然遺産が削除されることを指します。これは通常、登録された遺産がその価値を損なったり、維持管理が不適切である場合に行われます。抹消は、特定の遺産に対して行われることがありますが、一般的にはまれな措置です。

抹消が行われる主な理由には、以下のようなものがあります。
1.遺産の状態の悪化
 登録された遺産が維持管理されず、その状態が急激に悪化した場合、ユネスコは抹消を検討することがあります。

2.自然災害
 地震、洪水、火山噴火などの自然災害が遺産に大きな影響を与え、その価値が損なわれた場合に抹消の対象となることがあります。

3.人為的な脅威
 戦争、紛争、開発プロジェクト、盗掘などが遺産に対して直接的な脅威をもたらし、それが継続的で解決が難しい場合に抹消が考えられます。

抹消手続きは慎重かつ詳細に行われ、関連する国や地域、国際的な専門家との協議が含まれます。抹消は、世界遺産の価値や保護の必要性を考慮する過程で行われ、世界遺産委員会が最終的な判断を下します。

抹消された世界遺産(3件)

2023年11月現在、実際に抹消された世界遺産は3件あります。

1.アラビアオリックスの保護区 オマーン(2007年抹消)

アラビアオリックスの保護区
Oryx


 アラビアオリックスの保護地区として知られる主な場所は、アラビア半島に位置するオマーンとサウジアラビアです。アラビアオリックスは、草原や砂漠地帯に生息する中型の角のある動物で、かつては野生での生息が絶滅の危機に瀕していました。

オマーンは、アラビアオリックスの保護と繁殖に成功した国として知られています。ジッダット・アル・ハルシン自然保護区が1994年に世界遺産登録されています。

しかしながら、密猟が多く、オマーン政府が設定区域を削減したことが原因で、景観の保護が損なわれるとされ、危機遺産リストに登録されることなく、2007年に登録が抹消されています。

2.ドレスデン・エルベ渓谷 ドイツ(2009年抹消)

ドレスデン・エルベ渓谷
DresdenElbeValley


 ドレスデン・エルベ渓谷は、ドイツ東部に位置する文化的景観の一部で、ドレスデン市を中心としたエルベ川流域の一部を指します。この地域は美しい自然景観と歴史的な建造物が調和した風光明媚なエリアで、2004年にユネスコによって世界遺産に登録されました。

しかしながら、住民投票で新しいコンクリート橋の建設が決定すると、景観の保護が損なわれるとされ、2009年に登録が抹消されています。

3.海商都市リバプール イギリス(2021年抹消)

海商都市リバプール
Liverpool


 リバプールは、イギリスのイングランドに位置する都市で、エンバー川の東側に位置しています。リバプールは歴史的な海商都市として知られ、その重要な港湾施設と取引の歴史が、19世紀のイギリスの工業革命時代において特に際立っています。

しかしながら、ウォーターフロント開発計画などの再開発により、景観の保護が損なわれるとされ、2021年に登録が抹消されています。

危機遺産一覧

ユネスコの危機遺産リストは、登録された世界遺産の中で、保存状態が悪化している、自然または人為的な脅威にさらされている、または他の深刻な理由により保全が危ぶまれていると見なされた遺産を示すリストです。危機遺産リストに登録されることは、その遺産の保存に向けて国際的な支援が必要であることを意味します。

2023年11月現在、39件の文化遺産、16件の自然遺産(下表の青字)が危機遺産リストに登録されています。

最新情報は、ユネスコの世界遺産センターのHPを確認ください。

No. 登録名 登録年 危機遺産登録年 危機理由
1 エルサレムの旧市街とその城壁群 1981年 1982年 エルサレム 周辺情勢が不安定のため
2 チャン・チャン遺跡地帯 1986年 1986年 ペルー 潮風などによる建材の劣化
3 ニンバ山厳正自然保護区 1981年 1992年 ギニア/
コートジボワール
資源開発、難民の流入による環境の悪化
4 アイル・テネレ自然保護区 1991年 1992年 ニジェール トゥアレグ人の独立問題に関連する治安の悪化
5 ヴィルンガ国立公園 1979年 1994年 コンゴ民主共和国 難民の大量流入などによる環境悪化、違法な木炭売買
6 ガランバ国立公園 1980年 1996年 コンゴ民主共和国 密猟によるキタシロサイの激減
7 オカピ野生生物保護区 1996年 1997年 コンゴ民主共和国 密猟
8 カフジ=ビエガ国立公園 1980年 1997年 コンゴ民主共和国 伝染病などによるゴリラの減少
9 マノヴォ=グンダ・サン・フローリス国立公園 1988年 1997年 中央アフリカ 密猟、治安悪化
10 古都ザビード 1993年 2000年 イエメン 都市化による伝統的都市景観の変化
11 アブ・メナ 1979年 2001年 エジプト 地下水位上昇による崩壊の危機
12 ジャームのミナレットと考古遺跡群 2002年 2002年 アフガニスタン 治安の悪化、浸水被害
13 バーミヤン渓谷の文化的景観と古代遺跡群 2003年 2003年 アフガニスタン タリバンによる石像爆破
14 アッシュル (カルアト・シェルカート) 2003年 2003年 イラク ダム建設計画による水没の危機
15 コロとその港 1993年 2005年 ベネズエラ 豪雨による被害、周辺の開発
16 コソボの中世建造物群 2004年 2006年 セルビア 治安の悪化
17 都市遺跡サーマッラー 2007年 2007年 イラク 周辺情勢の不安定さ
18 ニョコロ=コバ国立公園 1981年 2007年 セネガル ガンビア川上流のダム建設計画による環境悪化の懸念
19 エバーグレーズ国立公園 1979年 2010年 アメリカ 水生生物の生態系の悪化
20 アツィナナナの雨林 2007年 2010年 マダガスカル 違法な伐採や密猟
21 スマトラの熱帯雨林遺産 2004年 2010年 インドネシア 違法な伐採や密猟
22 リオ・プラタノ生物圏保護区 1982年 2011年 ホンジュラス 違法な伐採や密猟
23 パナマのカリブ海側の要塞群- 1980年 2012年 パナマ 保存計画の不備
24 アスキアの墓 2004年 2012年 マリ共和国 マリ北部紛争
25 トンブクトゥ 1988年 2012年 マリ共和国 マリ北部紛争
26 東レンネル 1998年 2013年 ソロモン諸島 森林伐採
27 古代都市ダマスカス 1979年 2013年 シリア シリア内戦
28 パルミラ遺跡 1980年 2013年 シリア シリア内戦
29 古代都市アレッポ 1986年 2013年 シリア シリア内戦
30 クラック・デ・シュヴァリエとカラット・サラーフ・アッディーン 2006年 2013年 シリア シリア内戦
31 シリア北部の古代村落群 2011年 2014年 シリア シリア内戦
32 セルース猟獣保護区 1982年 2014年 タンザニア 密猟の横行
33 ポトシ市街 1987年 2014年 ボリビア セロ・リコ鉱山の管理不徹底
34 パレスチナ:オリーブとワインの地 – エルサレム南部バティールの文化的景観 2014年 2014年 パレスチナ 地域情勢による完全性と真正性への脅威
35 サナア旧市街 1986年 2015年 イエメン 地域情勢による完全性と真正性への脅威
36 シバームの旧城壁都市 1982年 2015年 イエメン 地域情勢による潜在的な脅威
37 ハトラ 1985年 2015年 イラク ISILによる破壊活動
38 ジェンネ旧市街 1988年 2016年 マリ共和国 情勢の不安定
39 シャフリサブス歴史地区 2000年 2016年 ウズベキスタン 観光開発への懸念
40 レプティス・マグナの考古遺跡 1982年 2016年 リビア 政情不安
41 サブラタの考古遺跡 1982年 2016年 リビア 政情不安
42 キュレネの考古遺跡 1982年 2016年 リビア 政情不安
43 タドラルト・アカクスの岩絵遺跡群 1985年 2016年 リビア 政情不安
44 ガダミスの旧市街 1986年 2016年 リビア 政情不安
45 ナンマトル:東ミクロネシアの祭祀センター 2016年 2016年 ミクロネシア マングローブの繁茂など、保全状況への懸念
46 ウィーン歴史地区 2001年

2017年

オーストリア 2017年 都市開発によって景観が損なわれる恐れ
47 ヘブロン(アル=ハリール)旧市街 2017年 2017年 パレスチナ 周辺情勢
48 トゥルカナ湖国立公園群 1997年 2018年 ケニア ダム建設による環境の悪化
49 カリフォルニア湾の島々と自然保護区群 2005年 2019年 メキシコ コガシラネズミイルカ絶滅の恐れ
50 ロシア・モンタナの鉱山景観 2021年 2021年 ルーマニア 採掘をめぐって投資紛争解決国際センターで係争中
51 マアリブの古代サバア王国記念建造物群 2023年 2023年 イエメン イエメン内戦_による環境悪化
52 トリポリのラシッド・カラミ国際見本市 2023年 2023年 レバノン 保全環境の悪化と周辺開発の可能性による潜在的危機
53 オデーサ歴史地区 2023年 2023年 ウクライナ ロシアによる軍事侵攻
54 キエフの聖ソフィア大聖堂と関連する修道院群及びキエフ・ペチェールシク大修道院 1990年 2023年 ウクライナ ロシアによる軍事侵攻
55 リヴィウ歴史地区群 1998年 2023年 ウクライナ ロシアによる軍事侵攻
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まとめ

・抹消された世界遺産は3件
・危機遺産リストには、文化遺産39件、自然遺産16件が登録されている。

世界遺産に興味を持たれた方は、世界遺産検定に挑戦してみてはいかがでしょうか。
世界遺産検定公式HP