世界遺産の基礎知識6-世界遺産への道:登録プロセスの全貌とそこから見えてくるもの【世界遺産検定】

知床 自然遺産

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世界遺産の基礎知識についてまとめます。世界遺産という言葉は聞いたことあるけど、世界遺産とは何を目的にどのような基準で登録されるのか、確認していきましょう。世界遺産検定を受検する方は、試験全体の20~25%を占める重要なパートとなります。


目次

世界遺産への道:登録プロセスの全貌とそこから見えてくるもの

世界遺産は、人類共通の宝として未来に引き継ぐべきかけがえのない価値を持つ場所です。しかし、その輝かしい称号を得るまでには、実に長く、複雑な道のりがあります。ここでは、世界遺産がどのようにして登録されるのか、そのプロセスを具体例を交えながら詳しく見ていきましょう。

ある場所が世界遺産として認められるには、数年、時には数十年を要します。大まかな流れは以下の通りです。

  1. 暫定リストへの記載: まず、各国が自国内の「世界遺産になる可能性のある場所」をリストアップし、暫定リスト(英語かフランス語)としてユネスコの世界遺産センターに提出します。日本の場合、文化庁と林野庁が中心となり、地域の提案を受けて検討します。世界遺産センターは暫定リストを関係機関に伝達し、世界遺産センターのサイトで公開する。暫定リストに載っていない遺産は推薦が不可となる。
  2. 推薦書の作成と提出: 暫定リストの中から、より具体的に推薦する遺産を選定し、その価値や保護管理体制などを詳細に記した推薦書を作成します。この推薦書は、非常に分厚く、膨大な情報量となります。2月1日までセンターに推薦書提出(前年9月30日まで草案を提出しコメント得ることも可)する。
     (2月1日〆が多いが、登録遺産の状況報告書は12月1日〆(2014年決定))
  3. 諮問機関による評価: 提出された推薦書は、ユネスコの諮問機関であるICOMOS(国際記念物遺跡会議)IUCN(国際自然保護連合)によって、専門的な評価が行われます。
  4. 世界遺産委員会での審議・決定: 諮問機関の評価報告に基づき、年に一度開催される世界遺産委員会で審議が行われ、最終的な登録の可否が決定されます。
  5. 登録後の保護・管理、持続可能な観光と地域貢献:登録された遺産は、遺産の価値を維持するための定期報告やモニタリングが継続的に行われます。また、持続可能な観光を推進し、地域社会への貢献も目指します。

推薦書の提出から登録決定までは、おおよそ1年半かかります。例えば、日本の場合は例年9月頃に関係省庁連絡会議で推薦遺産を閣議決定し、翌年1月にユネスコへ推薦書を提出するスケジュールが一般的です。

各ステップの具体例とキーポイント

各ステップの具体例とキーポイントをご紹介します。

暫定リスト:未来の遺産候補たち

暫定リストは、将来の世界遺産候補のいわば「予備軍」です。ここに載ることで、国際的な注目を集め、国内での保護活動や調査が進むきっかけにもなります。例えば、日本からは現在も複数の候補が暫定リストに記載されており、今後の推薦が期待されています。

推薦書の記載内容

推薦書は、その遺産がなぜ「顕著な普遍的価値(Outstanding Universal Value: OUV)」を持つのかを、科学的・歴史的な根拠に基づいて証明するものです。遺産の範囲、特性、登録基準への合致、現在の保護状況、将来の管理計画、モニタリング方法など、多岐にわたる項目を詳細に記載する必要があります。

推薦書には以下の項目を記載する。

・資産の範囲
・資産の内容
・登録の価値証明(あてはまる登録基準)
・保全状況及び資産へ影響を与える諸条件
・保全管理(保護のための法的措置、計画的措置、管理計画等)
・モニタリング(保全状況測定の指標等) 等

手続き等については、文化庁の文書を参照ください。

アップストリーム・プロセス

アップストリーム・プロセスは、2008年委員会で示され、2015年委員会で採用決定したプロセスのことで、委員会審議までの間に推薦国からの求めで諮問機関等が助言、相談、分析等の支援を行う仕組みのことです。

推薦国が希望すれば、推薦書作成の早い段階から諮問機関が専門的な助言や支援を行います。これは任意ですが、推薦の準備をより効率的かつ効果的に進めるために活用されます。

アップストリーム・プロセスの詳細は、世界遺産マニア (worldheritage-mania.com)を参照ください。

プレリミナリー・アセスメント(事前調査)

プレリミナリー・アセスメント(事前調査)は、2021年の世界遺産委員会で新たに導入が決まったプロセスです。各国が推薦書を提出する前に諮問機関に評価を依頼して、早い段階から対話を通じた助言をもらい推薦書をブラッシュアップする取り組みです。

現在は移行期間ですが、2027年に推薦する遺産からは義務になります。この点がアップストリーム・プロセスとは異なります。つまり、2027年からは、世界遺産の推薦プロセスが「プレリミナリー・アセスメント」と「本推薦」の2段階になります。

日本で初めてプレリミナリー・アセスメントを用いて推薦するのが「彦根城」です。
プレリミナリー―・アセスメントの詳細は、世界遺産検定のブログを参照ください。

諮問機関の評価:専門家の厳しい目

推薦書が提出されると、ICOMOS(文化遺産担当)とIUCN(自然遺産担当)がそれぞれの専門性に基づいて厳密な評価を行います。これには、書類審査だけでなく、現地調査も含まれます。専門家が実際に現地を訪れ、推薦書の内容と現状が合致しているか、遺産の保護管理が適切に行われているかなどを詳細に確認します。この評価報告書が、世界遺産委員会の審議に大きな影響を与えます。

・世界遺産センターからの依頼を受けて、調査を実施する。
・世界遺産委員会の開催6週間前までに、調査結果(登録、情報照会、登録延期、不登録)を世界遺産センターに報告する。

世界遺産委員会の審議・決定:国際社会の判断

世界遺産委員会は、21カ国の委員国で構成され、毎年夏頃に開催されます。委員会では、諮問機関の評価報告書に基づき、各推薦遺産について議論が行われます。委員国間の意見交換や調整を経て、最終的に登録の可否が決定されます。登録が認められると、その遺産は正式に「世界遺産リスト」に記載され、国際社会が保護すべき人類共通の宝として認知されるのです。

・候補地を審査し、世界遺産リストの登録を決定する。
・委員国の意見がまとまらず投票の場合は、2/3以上同意で可決する。
・2022年の世界遺産委員会での審議される遺産から、推薦書を提出する国が審査に係る費用を自発的に支払う。(自発的な財政貢献)
・2023年7月からはアメリカもユネスコに復帰し、分担金を支払うため、財政難はこれまでよりも改善される見込み。

世界遺産リストの詳細は、ユネスコ世界遺産リストを確認ください。

世界遺産登録後の継続的な責任と課題

世界遺産に登録されることはゴールではなく、むしろ新たな始まりです。登録後も、その遺産の「顕著な普遍的価値」を未来に引き継ぐための継続的な努力と責任が伴います。

登録後の保護管理:モニタリングと報告

締約国は、登録された世界遺産の保存状況を定期的に世界遺産委員会に報告する定期報告の義務があります。また、自然災害や開発、紛争などによって遺産が危機に瀕した場合は、リアクティブ・モニタリングとして緊急の調査が行われ、必要に応じて「危機遺産リスト」に登録されます。これは、国際社会からの支援を促し、遺産保護を強化するための措置です。万が一、遺産の価値が回復不能なほど損なわれた場合、登録が解除される可能性もゼロではありません。

観光と保全のバランス:持続可能な未来へ

世界遺産登録は、観光客の増加による経済効果をもたらす一方で、オーバーツーリズムという課題も引き起こします。過度な観光客の流入は、遺産そのものへの物理的な損傷、周辺環境への負荷、地域住民の生活への影響など、様々な問題を生じさせることがあります。

  1. 正の側面
     ・世界遺産を資源とする観光は相互理解の有効な機会
     ・観光収入の遺産保護、インフラ整備、地域社会への分配は積極的に取り組むべき
  2. 負の側面
     ・オーバーツーリズム、遺産の破壊、汚染、住民の日常への支障等の課題
     ・上記の結果、遺産そのものの価値が観光化によって変質してしまう

負の側面を解決するため、世界遺産を永続的な観光資源として活用するための指針が示されている。
 ・1980年IUCN世界保全戦略「持続可能な開発」
 ・1992年リオデジャネイロで開催された国連環境開発会議で、「アジェンダ21」(観光を持続可能な開発に積極的に貢献できる経済分野)
 ・世界遺産委員会による「世界遺産と持続可能な観光計画」(観光資源として活用するための指針)

このため、世界遺産では「持続可能な観光」の推進が非常に重要視されています。観光収入を遺産の保護に還元し、地域住民の生活と文化を尊重しながら、未来に遺産を継承していくためのバランスの取れた管理が求められるのです。また、遺産周辺の開発を行う際には、その開発が遺産に与える影響を評価する「遺産影響評価(Heritage Impact Assessment: HIA)」を実施するなど、慎重な検討が行われます。

世界遺産の今後

世界遺産リストの不均衡・登録数が増えたことで世界遺産の冠の信頼性減少、環境破壊、遺産破壊、都市開発、過度の観光化などへの対応が求められる。
世界遺産を守ることは、自分の属する文化や自然を守り、価値を高めることにつながる。

・「点」で保護してきた遺産を周辺の景観も含んだ「面」で保護する施策
・バッファー・ゾーンを超える一帯を含めて評価する「遺産影響評価」

まとめ

  1. 世界遺産リスト記載までの流れ
    ・締約国は世界遺産センターの協力のもと暫定リストを作成(英語かフランス語)する。
    ・世界遺産センターは暫定リストを関係機関に伝達し、世界遺産センターのサイトで公開する。
    ・暫定リストに載っていない遺産は推薦が不可となる。
    ・2月1日までセンターに推薦書提出(前年9月30日まで草案を提出しコメント得ることも可)する。
     (2月1日〆が多いが、登録遺産の状況報告書は12月1日〆(2014年決定))
    ・推薦書を世界遺産センターに提出してから登録まで1年半ほどの期間がかかる。
    ・日本の場合は9月頃に関係省庁連絡会議で推薦遺産を決定し、1月に推薦書を閣議了解する。
  2. アップストリーム・プロセスとプレリミナリー・アセスメント(事前調査)
    ・アップストリーム・プロセスは任意であるが、2021年の世界遺産委員会で新たに導入が決まったプレリミナリーアセスメント(事前調査)は2027年に推薦する遺産からは義務となる。
    日本で初めてプレリミナリー・アセスメントを用いて推薦するのが「彦根城」
  3. 世界遺産登録の流れ
    2023年7月からはアメリカもユネスコに復帰し、分担金を支払う。

世界遺産に興味を持たれた方は、世界遺産検定に挑戦してみてはいかがでしょうか。世界遺産検定公式HP

世界遺産に関するよくある質問

世界遺産について、皆さんが疑問に思うことの多い質問とその回答をまとめました。

世界遺産って具体的に何を指すの?

世界遺産とは、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)が認定した、人類全体にとってかけがえのない価値を持つ文化財や自然地域のことです。地球上の多様な文化や自然の多様性を代表するもので、将来の世代に引き継いでいくべき宝物とされています。大きく分けて、人類の歴史や文化を示す「文化遺産」、地球の自然や生態系を示す「自然遺産」、そして両方の価値を兼ね備える「複合遺産」の3種類があります。

世界遺産に登録されると、何か特別なメリットがあるの?

世界遺産に登録されると、主に以下のようなメリットがあります。

  • 国際的な認知度向上: 世界中からの注目を集め、観光客が増加することで、地域経済の活性化につながります。
  • 保護・管理体制の強化: 国際的な基準に基づいた保護計画が策定され、必要に応じてユネスコの世界遺産基金からの支援も受けられます。これにより、より専門的かつ持続可能な形で遺産が守られます。
  • 地域住民の意識向上: 遺産が世界的に認められることで、地域の人々の遺産への誇りや、保全活動への意識が高まります。

日本にはいくつ世界遺産があるの?

2024年7月現在、日本には26件の世界遺産が登録されています。内訳は、21件の文化遺産と5件の自然遺産です。

世界遺産って一度登録されたら、ずっと安泰なの?

いいえ、そうではありません。世界遺産は登録後も、その「顕著な普遍的価値」を維持しているか、ユネスコによって継続的にモニタリングされます。自然災害、開発、紛争、オーバーツーリズム(観光客の過剰な集中)などによって遺産が脅威にさらされた場合、その遺産は「危機遺産リスト」に登録されることがあります。これは、国際的な支援を促し、遺産の保護を強化するための措置です。極めて稀ですが、価値が完全に失われたと判断された場合は、世界遺産リストから削除される可能性もあります。

世界遺産と、日本の国宝や国立公園ってどう違うの?

  • 世界遺産: ユネスコが国際的な基準に基づいて認定する「人類全体にとっての価値」を持つ遺産です。国際的な保護と協力の枠組みで守られます。
  • 国宝: 日本国内の文化財保護法に基づき、特に価値が高いと国が指定する建造物や美術工芸品です。国内法による保護が主です。
  • 国立公園: 自然公園法に基づき、優れた自然景観を持つ地域を国が指定・保護するものです。自然環境の保全と利用の調和を目指します。

これらは保護のレベルや管轄が異なりますが、例えば、日本の自然遺産である「屋久島」や「知床」は国立公園の一部であり、また文化遺産の中には国宝を含むものも多く、複数の保護制度が重なり合って適用されているケースも少なくありません。

世界遺産を訪問する際に、気を付けるべきことは?

世界遺産は貴重な人類共通の財産です。訪問する際には、以下の点に配慮しましょう。

  • ルールやマナーを守る: 各遺産にはそれぞれの保護のためのルールがあります。立ち入り禁止区域に入らない、指定されたルートを歩く、ゴミは持ち帰るなど、現地の指示に従いましょう。
  • 遺産に触れない・傷つけない: 建造物や自然物には直接触れたり、落書きをしたり、何かを持ち去ったりしないようにしましょう。
  • 写真撮影に配慮する: フラッシュの使用が禁止されている場所や、特定の場所での撮影が制限されている場合があります。他の訪問者や地元住民への配慮も忘れずに。
  • 地域文化を尊重する: 遺産が所在する地域の文化や伝統、人々の生活を尊重し、敬意を持って行動しましょう。
  • 持続可能な観光を心がける: 大量の観光客が集中することで遺産や地域社会に負荷がかかることがあります。混雑時を避ける、公共交通機関を利用する、地元経済に貢献するなどの配慮も大切です。
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