中国・浙江省杭州市の郊外に、約5000年前の「都」の跡が眠っています。2019年に世界遺産に登録された良渚古城遺跡(りょうしょこじょういせき。中国語読みでリャンジュ)は、紀元前3300〜2300年ごろの長江下流域に、稲作を経済の基盤とし、統一された信仰を持つ初期の地域国家があったことを示す遺跡です。城壁に囲まれた都の跡に加え、都を守るためのダム群や、身分の差が表れた墓地が残っています。
ただ、遺跡の多くは土に埋め戻されて保存されているため、「行っても何が見られるのか」「どこから回ればよいのか」が分かりにくい遺産でもあります。本記事では、4つの構成資産の見どころ、杭州からの行き方、遺跡公園と良渚博物院の回り方といった旅行情報と、登録基準や推薦の経緯など世界遺産検定のポイントを、ユネスコの公式資料にもとづいて整理します。




良渚古城遺跡とは?世界遺産の基本データ
良渚古城遺跡は、長江流域の天目山の東麓、川が網の目のように流れる平野に位置します。UNESCOは、この遺跡を太湖周辺に広がった初期の地域国家の「権力と信仰の中心」と位置づけ、離れた場所にある4つの区域をまとめて登録したシリアル・ノミネーション(連続性のある資産)として評価しています。
| 名称 | 良渚古城遺跡(世界遺産検定の表記) (英語名:Archaeological Ruins of Liangzhu City) |
|---|---|
| 所在地 | 中華人民共和国 浙江省 杭州市 余杭区 |
| 登録年 | 2019年(第43回世界遺産委員会・アゼルバイジャンのバクー) |
| 登録基準 | (3):現存する、あるいは消滅した文化的伝統や文明に関する独特な、あるいは稀な証拠を示している。 (4):人類の歴史上において、重要な時代を例証する、ある形式の建造物、建築物群、技術の集積または景観の優れた例である。 |
| 年代 | 紀元前3300〜2300年ごろ(新石器時代後期) |
| 資産面積 | 1,433.66ha(緩衝地帯9,980.29ha) |
| 構成資産 | 4件(瑶山遺跡、谷口の高ダム、平野の低ダム・山前の長堤、城址) |
構成資産の名称は、UNESCOの英語名(Area of Yaoshan Site など)を当サイトで日本語に訳したものです。4つの構成資産のおおまかな位置関係は、次の模式図で確認できます。

5000年前の「初期国家」良渚の歴史
良渚古城遺跡が何を伝える遺跡なのかを、発見から登録までの流れと、遺跡が示す社会の姿に分けて押さえておきましょう。
1936年の発見から2019年の登録まで
ICOMOS(国際記念物遺跡会議)の評価書によると、遺跡は1936年、考古学者の施昕更(し・きんこう)が新石器時代を代表する黒色の土器を見つけたことをきっかけに発見されました。1959年には「良渚文化」と名づけられ、1980年代以降、発掘と研究が続けられてきました。遺跡の公式サイトによると、1986年には反山、1987年には瑶山で、玉器を副葬した墓が発掘されています。
世界遺産への道のりでは、2013年に暫定リストへ記載されました。このときは城址だけの単独の資産として、登録基準(ii)(iv)(vi)で記載されていました。その後、ダム群や瑶山遺跡を加えた4つの構成資産での推薦に改められ、2019年7月6日、バクーで開かれた第43回世界遺産委員会で、基準(iii)(iv)で登録されました。
稲作と玉器が支えた「権力と信仰の中心」
UNESCOは、良渚の社会の特徴として、稲作農耕を経済の基盤とし、身分の分化があり、統一された信仰体系を持っていた点を挙げています。その信仰を象徴するのが、墓から出土した玉器(ぎょっき)です。中でも、四角い筒形の玉琮(ぎょくそう)には、神の顔と獣をかたどった文様が細かく刻まれています。ICOMOSは、大量の炭化米の遺物や玉器を加工した跡も、遺産の価値を伝える要素として挙げています。
中国文明の起源に長江流域が果たした役割
中国文明というと黄河流域が注目されがちですが、UNESCOは良渚古城遺跡について、都の跡・ダム群・墓地・玉器と、その年代の古さから、長江流域が中国文明の起源に大きく貢献したことを示すと評価しています。また中国側は推薦にあたり、中国文明の起源が「多元一体」であることを示す遺跡だと位置づけました。黄河流域の殷墟(紀元前14〜11世紀ごろの都の跡)よりも1000年以上古い時代の遺跡である点も、あわせて覚えておくとよいでしょう。
4つの構成資産と見どころ
4つの構成資産の面積と年代を一覧にしました。年代と数値は、いずれもICOMOSの評価書にもとづきます。
| 構成資産 | 内容 | 年代(紀元前) |
|---|---|---|
| 瑶山遺跡 | 丘の上の祭壇と、2列に並ぶ墓地(66.56ha) | 3300〜3100年ごろ |
| 谷口の高ダム | 城址の北西約11kmの谷にある6か所の人工ダム(136.41ha) | 3100〜2850年ごろに築造、2600年ごろまで使用 |
| 平野の低ダム・山前の長堤 | 4か所の人工ダムと、長さ約5kmの山前の長堤(塘山遺跡)(349.24ha) | 3000〜2600年ごろ |
| 城址 | 宮殿区・内城・外城と、身分の差が表れた墓地群(881.45ha) | 主に3000〜2850年ごろに築造、2300年ごろまで使用 |
このうち、旅行者が訪ねやすいのは城址(遺跡公園)と良渚博物院です。ICOMOSの評価書(2019年)では、公開の計画は瑶山遺跡と城址が対象で、2つのダム群は当面公開しない予定とされていました。その後、ダム群の一部は老虎嶺の遺跡公園として整備されていますが、公開状況は現地の公式情報で確認してください。
城址:宮殿区・内城・外城の三重構造
中心となる城址は、宮殿区・内城・外城が中心から外へ広がる三重の構造を持つ都の跡です。宮殿区は莫角山(ばっかくさん)と呼ばれる人工の高台の上に置かれ、王クラスの墓が集まる反山などの墓地も城址の中にあります。城内には古い川筋(水路)が残っており、ICOMOSは内城と外城が持つ「水の都」としての特徴も、遺産の価値を伝える要素に挙げています。
遺跡そのものは土に埋め戻して保存されているため、地上で見られるのは、植栽で城壁や建物の配置を示した広大な公園の風景です。往時の都の姿を想像しながら歩くのが、この遺跡の楽しみ方といえます。
瑶山遺跡:祭壇と玉器を副葬した墓地
瑶山遺跡は、城址の外の丘の上にある、祭祀の場(祭壇)と墓地の跡です。墓地からは玉器を含む数百点の遺物が出土しました。遺跡の公式サイトは、瑶山を良渚文化の墓地の中でも格式が高く、出土した玉器の数・種類が特に多い墓地と紹介しています。年代は紀元前3300〜3100年ごろと、4つの構成資産の中で最も古い時期のものです。
谷口の高ダム:5000年前の大規模な水利施設
城址の北西の谷には、谷をせき止めた6か所の人工ダムが残っています。UNESCOは、これらのダム群を城址を囲む「外周の水利システム」として評価しています。遺跡の公式サイトでは、このシステムを中国で知られている最も古い大規模な水利工事と紹介しています。高ダムの一つ老虎嶺(ろうこれい)遺跡は保護棚の下で断面が公開されており、草で泥を包んで積み上げる「草裹泥(そうかでい)」という工法の跡が確認できます。

平野の低ダム・山前の長堤:都の北と西を守った土手
城址の北と西には、4か所の人工ダムと、山のふもとに沿って約5km続く長堤(塘山遺跡)があります。長堤の幅は20〜50mあり、高ダムと組み合わさって、水をためたり流れを調整したりする仕組みを作っていたと考えられています。現在は竹林や茶畑に覆われている部分が多く、遺構として目で見て分かる場所は限られます。
良渚博物院:出土した玉器を見るならここ
構成資産ではありませんが、良渚古城遺跡を訪ねるなら良渚博物院は外せません。英国の建築家デイヴィッド・チッパーフィールドが設計した建物で、玉器・土器・石器など、良渚文化の出土品を展示しています。遺跡の公式サイトでは、反山や瑶山で出土した玉器の一部も紹介されています。なお、反山12号墓から出土した最大の玉琮、通称「玉琮王」は、杭州市内の浙江省博物館が所蔵しています。

なぜ世界遺産?登録基準(iii)(iv)と検定のポイント
良渚古城遺跡は、登録基準(iii)と(iv)で登録されています。UNESCOの評価内容と、検定で狙われやすいポイントを整理します。
登録基準(iii):消滅した文明の比類ない証拠
UNESCOは、良渚古城遺跡が良渚文化の権力と信仰の中心として、新石器時代後期の長江下流域に存在した、稲作農耕を基盤とし、身分の分化と統一された信仰体系を持つ初期の地域国家の際立った証拠であると評価しました。さらに、新石器時代後期から青銅器時代初期の中国と周辺地域における、文化的アイデンティティや社会・政治の組織のあり方について、比類のない証拠を示しているとしています。
登録基準(iv):初期の都市化を示す傑出した例
基準(iv)では、良渚古城遺跡が、小規模な新石器時代の社会から、身分の序列・儀礼・手工業を備えた大きな統合された政治単位への移行を示している点が評価されました。土を盛って築いた大型の建造物、都と周辺の景観の計画、墓地に表れた社会の序列などが、初期の都市化の傑出した例とされています。UNESCOは、5000年以上前の中国の先史時代の稲作文明が成し遂げた偉大な成果だとも述べています。
検定で狙われやすいポイント
- 暫定リストと登録時で基準が違う:2013年の暫定リストは城址のみ・基準(ii)(iv)(vi)。登録は4つの構成資産で基準(iii)(iv)
- 同じ会合で登録された日本の遺産:2019年のバクー会合では、日本の百舌鳥・古市古墳群も登録されている
- 杭州市で見られる世界遺産は3件:良渚古城遺跡(2019年)、杭州にある西湖の文化的景観(2011年)、京杭大運河(2014年。杭州は運河の南端)
- キーワードの組み合わせ:「長江下流域」「稲作」「玉琮」「ダム(水利システム)」「新石器時代後期」がそろえば良渚
あわせて覚えたい中国の世界遺産
先史時代・古代の遺跡や、水を管理する技術が評価された中国の世界遺産を表にまとめました。登録年と登録基準をセットで比べておくと、選択肢で迷いにくくなります。
| 関係する世界遺産 | 登録年・登録基準 | 良渚古城遺跡との関係 |
|---|---|---|
| 北京原人化石出土の周口店遺跡 | 1987年・(iii)(vi) | 中国の先史時代の遺跡。良渚と同じく基準(iii)を含む |
| 殷墟 | 2006年・(ii)(iii)(iv)(vi) | 黄河流域の殷の都の跡。長江流域の良渚と対比して覚える |
| 青城山と都江堰水利施設 | 2000年・(ii)(iv)(vi) | 古代の水利施設の世界遺産。良渚のダム群とあわせて押さえる |
| 紅河ハニ族棚田群の文化的景観 | 2013年・(iii)(v) | 稲作の景観の世界遺産。良渚と同じく基準(iii)を含む |
良渚古城遺跡への行き方
良渚古城遺跡は、杭州市の市街地の北西、余杭区にあります。日本からの移動と、杭州からの移動に分けて紹介します。
日本から杭州へ
玄関口は杭州蕭山国際空港、または上海です。日本から杭州への直行便の有無や就航都市は時期によって変わるため、上海の空港に到着して高速鉄道で杭州へ向かうルートも比較すると選択肢が広がります。
日本国籍の場合、2026年10月時点では30日以内の観光などはビザ(査証)免除の措置が取られています(2026年12月31日までの措置として延長が発表されています)。条件や期限は変更されることがあるため、在日本中国大使館や外務省 海外安全ホームページ(中国)で最新情報を確認してください。
杭州市街から良渚博物院・遺跡公園へ
良渚博物院の公式サイトによると、博物院へは杭州地下鉄2号線で「良渚」駅まで行き、路線バスに乗り換えて「良渚博物院」バス停で降ります。博物院の所在地は杭州市余杭区美麗洲路1号です。
城址の遺跡公園(良渚古城遺址公園)は、博物院からさらに西の瓶窯(へいよう)地区にあります。杭州市の報道によると、2019年7月の開園時には、地下鉄良渚駅から博物院を経由して遺跡公園へ向かう接続バスが運行されていました。バスの路線は変わることがあるため、乗り換えに不安がある場合は、博物院から遺跡公園まではタクシーや配車アプリを使うと確実です。
予約・入場料・開園時間は事前に確認
杭州市の報道によると、遺跡公園は2019年7月の開園時、微信(WeChat)の公式アカウントでの事前予約制で、1日の入園者数に上限が設けられていました。広い園内は電動カートで回る仕組みでした。現在の予約方法・入場料・開園時間・休園日は、変更されていることがあります。訪問前に、遺跡の公式サイト(良渚遺址官网、中国語)や良渚博物院の公式サイト(中国語)、微信の公式アカウントで確認してください。
杭州市内には、杭州にある西湖の文化的景観や京杭大運河といった世界遺産もあります。杭州に2〜3泊すれば、3つの世界遺産をまとめて巡れます。

中国旅行全体の準備は、中国旅行の完全ガイドにまとめています。
観光日数の目安と1日モデルコース
良渚博物院と城址の遺跡公園を合わせて、杭州から日帰りで1日が目安です。先に博物院で出土品と遺跡の全体像を見てから遺跡公園へ向かうと、埋め戻された遺跡の風景がぐっと理解しやすくなります。
1日モデルコース:良渚博物院→遺跡公園
- 午前:杭州市街から地下鉄2号線で良渚駅へ。良渚博物院で玉器や遺跡の模型を見学
- 午後:遺跡公園へ移動し、宮殿区のあった莫角山や反山の墓地、城壁の位置などを巡る(園内の移動手段は現地で確認)
- 夕方:杭州市街へ戻る。翌日以降に西湖や京杭大運河を組み合わせる
玉器の名品をさらに見たい場合は、「玉琮王」を所蔵する杭州市内の浙江省博物館にも足をのばしましょう。展示内容は入れ替わることがあるため、目当ての展示品がある場合は事前に確認してください。
ベストシーズン
遺跡公園は日陰の少ない屋外を長く歩くため、春や秋の過ごしやすい時期が快適です。ICOMOSの評価書は、この地域では主に6〜7月に洪水や夏の豪雨があると指摘しています。夏は暑さと雨への備えをしておきましょう。また、春節(旧正月)や10月1日からの国慶節の大型連休は、予約が取りにくく混雑しやすいため、できれば避けると安心です。
まとめ
良渚古城遺跡は、2019年に登録基準(iii)(iv)で世界遺産となった、長江流域に栄えた約5000年前の初期国家の都の跡です。最後に要点を振り返ります。
- 検定対策:2019年登録(第43回・バクー)・基準(iii)(iv)・構成資産4件・紀元前3300〜2300年ごろ。暫定リスト(2013年)は城址のみで基準(ii)(iv)(vi)だった。キーワードは「長江下流域」「稲作」「玉琮」「水利システム」
- 旅行:杭州から地下鉄2号線で良渚駅へ。良渚博物院→遺跡公園の順で日帰り1日。遺跡公園の予約・入場料・開園時間は公式で事前に確認
中国のほかの世界遺産や、検定で問われる世界遺産を横断的に調べたいときは、世界遺産の大辞典も活用してください。
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よくある質問

良渚古城遺跡はいつ世界遺産に登録されましたか?登録基準は?
2019年7月6日、アゼルバイジャンのバクーで開かれた第43回世界遺産委員会で登録されました。登録基準は(iii)と(iv)の2つです。
良渚古城遺跡の構成資産はいくつありますか?
4件です。祭壇と墓地のある瑶山遺跡、谷をせき止めた6か所のダムからなる谷口の高ダム、4か所のダムと長堤からなる平野の低ダム・山前の長堤、宮殿区・内城・外城からなる城址で構成されています(名称は当サイトの訳)。
良渚古城遺跡は杭州から日帰りで行けますか?
行けます。杭州市街から地下鉄2号線で良渚駅まで行き、バスやタクシーで良渚博物院・遺跡公園へ向かいます。博物院と遺跡公園を合わせて1日を見ておくと安心です。遺跡公園の予約方法や開園時間は変わることがあるため、事前に公式情報を確認してください。
良渚古城遺跡では何が見られますか?
遺構の多くは土に埋め戻して保存されているため、遺跡公園では植栽で示された城壁や宮殿区の配置を見て回る形になります。出土した玉器や土器は、良渚博物院で見られます。ダム群の一つ、老虎嶺遺跡では保護棚の下でダムの断面が公開されています。
アイキャッチ画像: Siyuwj / CC BY-SA 4.0(元画像をトリミング・リサイズして掲載)
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